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第11話:かわいい奴め。
柿本 剛はいつも一人だった。
口も悪いし態度もデカいと自負する剛は、高校の男子寮に入っていた。
皆が拒否するのか途中から同室の人が決まる事はないまま、
寮生活は一年を過ぎた。
ガテン系の大工の父親と、その父親よりも強い母親に育てられて剛は、
自分の名前がダサいと親と喧嘩になり、高校入学と同時に寮に入った。
この学校は校則は案外緩く、
剛の様に金髪メッシュにしても、ピアスを6個開けていても、
ちゃんと学校生活をしていれば問題なかった。
剛の他には派手な生徒はいないため、剛は若干目立っていた。
高校2年になり、この春始めて剛は同室になることになった。
それを伝えに来たのは唯一剛と気軽に話してくれる寮長の西本 耕助だった。
「というわけで、来週から2人部屋な」
「ええー、めんどいなぁ」
と、素直な感想を伝える。
普段ニコニコしている寮長である耕助は、
優男に見えて実はこの寮で一番強い。というか怖い。
だから、皆彼には逆らわない。
「どうせ、そいつもすぐに部屋変えてくれっていうんじゃないのかよ?」
まるで今までの奴がそう言っていたかのように言う剛。
だが耕助は、
「そんな奴は一人も居なかったって言ってるだろ」
「いいよ。気使わなくても」
と、半ば諦めて手をヒラヒラと振り部屋に戻る。
寮長は気を使っている。剛は人がいい寮長を尊敬していた。
自分のようなめんどくさい人間と同質になりたい奴なんて居るわけない。
次来るやつも、きっと自分の事を怖がって同室を止めたいと言うに決まってる。剛は、ふうっと溜息を吐いて、部屋を片付け始めた。
1週間後。
剛がいる部屋に連れて来られた人物を見て、
「・・・!」
剛は驚いた。
明らかに外国の血が混ざっているハーフの青年。
小柄で顔も可愛い系の女子にモテるタイプ。
そんな顔に黒縁のダサいメガネを掛けている。
「ここが今日から君の部屋だよ」
と、寮長は優しく案内をした。
「剛、この子が今日から同室になる佐々木 ルイくんだ。
佐々木くん、こっちが今日から同室になる柿本 剛だ。仲良くしてくれ」
ルイの可愛さに少々ショックを受けているのか、
見惚れていた剛は急に我に返り、
「柿本だ」
「佐々木です。よろしくお願いいします」
ルイはペコっと軽くお辞儀をした。
遅れて剛も軽く会釈をする。
「じゃあ、荷物片付けたら食堂に来て。寮内案内するから。剛ちゃんと連れてきてな」
「え、ちょっと」
そう言って、去っていく耕助。
なるべく関わらいようにしようとしているのに、
なぜ耕助は関わろうとさせるのか・・・
「柿本さん」
急に呼ばれ、はっとする剛。
「え」
「僕が使って良いのはここですか?」
と、収納の空いている場所を指さしてこっちを見つめるルイ。
自然と敬語になっている事が気になって、
「ああ」
「ありがとうございます。柿本さん」
ルイは荷物を手際よく収納に収めていこうとしたが、
小柄な彼にしては大きな荷物を引っ張るが、
「んぬぬ〜」
中々荷物が動かない。
ちなみにこの部屋までは寮長が台車で持ってきてくれた。
ダンボール3箱と大きなスポーツボストンバックが2つ。
その他の荷物は後日届くらしい。
非力かよ。
内心そう突っ込んで、
剛は軽々と彼の荷物を部屋の中に入れてやる。
「ほら、さっさとしろよ。どんくせえな」
「あ・・・」
あ、いけね。
もしかしたら怖がらせたかも。
剛は手を貸したことを一瞬後悔した。
でも、
「あ、ありがとう・・・ございます」
手伝ったのが意外に思われたのか、驚いた様な顔をして
でも少しだけ嬉しそうに笑った。
「・・・お、おう」
喜んでお礼を言われるなんて思っていなかった剛は、
ルイの笑顔を見て思わず、
(・・・くそかわ)
彼の可愛さにノックアウトしていた。
その後、モタモタと片付けるルイを手伝ってやり、
食堂まで連れていった。
食堂に入っていくと新人寮生を連れて歩く剛に、その場にいた皆はザワツいた。
それを感じた剛は、
ガラじゃない事をしていると思われていると感じて、顔をこわばらせた。
寮長が座る席にルイを連れて行き、
「連れてきたぜ」
「ありがとう。片付け早かったね」
のんびり呟く寮長。
しかしそれに答えたのは、
「柿本さんが手伝ってくれたから」
相変わらず敬語だが、ルイは少しだけはにかんでそう答えた。
その態度にギクッとなりながら、
意味深な笑顔を向ける寮長の視線から目をそらす。
だが寮長は意外とも思わず、
「へえ」
「・・・別に、どんくさくてイライラしただけだ」
と毒を吐く。
「そ、そう?」
ルイはそうは思っていなかった。
「荷物全部部屋の中に運んでくれたし、
収納の仕方まで上手でびっくりしたよ」
「うぐっ」
本気で褒めるルイに、褒められ慣れていない剛は、
「お前に任せると日が暮れんだろがっ」
「それもそうだね」
と笑うルイ。
その笑った顔も、
(っくそかわ)
可愛いと思ってしまう。
「俺はもういいだろっ」
とぶっきらぼうに言って、食堂を後にする剛。
それを疑問符を浮かべながらその後姿を見送るルイ。
そのやり取りを見てた寮長は思わず吹き出す。
「ほんっと、あいつって・・・」
「?」
何が起こっているのか分からないという顔をするルイに、
「君が来てくれて本当に良かったよ。ルイくん」
「はあ」
「あいつ、どう?」
「どうって・・・」
そういうルイに、寮長は話をし始める。
その後、
剛は部屋に戻り、食堂で目立ってしまった事を悔やんだ。
さっきのやり取りを遠巻きに見ていた他の寮生たちも、
自分を不思議な藻を見るかのような顔をしている様に見えた。
でももう慣れた。
そんな扱いを受けるのは慣れたんだ。
そう自分に言い聞かせる。
さっきの類の笑った顔、
あんな顔を向けられたのはいつぶりだろう。
そう思いながらふっと笑った。
その夕方。
「柿本くん・・・うぐっ」
部屋に戻ってきたルイはドアを抜けた瞬間何もない所でバタッとコケる。
「・・・」
「・・・何やってんだよ」
冷静に突っ込みつつ、
やれやれと、彼を起こしてやる剛。
「ほんと、どんくせえ」
言いながら、赤くなった額をさすってやる。
思わず目が合って、すぐに手を離す。
「ありがとう、ございます」
その敬語に、
「お前さ、それやめれば」
「え」
「同級生なのに敬語使う必要ねえだろ」
「ああ、うん」
ルイは額をさすりつつ。
「癖なんです。だれにでも敬語使うほうが楽っていうか」
「・・・」
少しだけ、黙って。
自分は皆と違う。
日本人でも、アメリカ人でもない。
じゃあ僕は、誰なの?
ルイには、小さい頃からそんな葛藤があった。
僕は誰なの?
だから、きっと誰とも『同じ』にはなれない。
ずっと、一人。
そんなのもう慣れた。
だから一定の距離を保つため、ルイは誰にでも敬語を使う事にした。
「そんなんじゃ、誰とだって打ち解けねえだろ」
剛にそう言われて、
ルイは、はっとした。
今まで自分にそう言ってくれる人なんていなかった。
誰とも一定の距離をとっていては、
誰とも距離を縮める事は出来ない。
剛ははっきりと言った。
「・・・そうかもね」
ルイは寂しそうに笑った。
それを見て、剛は胸が苦しくなった。
人知れず傷ついた自分を重ねて見てしまって、
ルイは気がつくと、
剛に頭を撫でられていた。
なだめるように、
落ち着かせるように。
この人、見た目怖いのに、
実は
めちゃくちゃ
おせっかいで
お人好しなのでは・・・?
ルイにじっと見つめられ、
剛ははっと我に返る。
フイッと剛はルイから離れ、
「と、とにかく敬語やめろよ」
「うん」
今剛に撫でられた頭をルイは愛おしそうに触れ、
「ありがとう」
今までで一番可愛い顔で笑うルイに、
(くっ・・・くそかわぁ)
可愛すぎて、内心悶えた。
そう、柿本 剛は、
金髪メッシュでピアス6個空いている。
眼力も強くて思った事をはっきり言うため、
彼をよく知らない人達からは一見強面に見られがちだが、
実はこの寮内では、
皆剛がお人好しである事は知っているため、
まったく恐れられてはいなかった。
そう思っているのは剛本人と新人の生徒だけ。
ルイは、入寮後に寮長から食堂で話を聞いていた。
ーーーー『佐々木くん、あいつどう?』
『え、どうって・・・』
ルイの言葉に、寮長はうなづく。
『思いついたこと、言ってみて』
彼はうーんと考えて、
『・・・世話好き』
『ぷっ』
『おせっかい』
『あはははっ』
寮長は我慢していたのを思い切り吐き出して笑う。
涙を拭きながら、
『合格』
『え?』
『初日からアイツのことよく分かってるじゃない』
『え、だって、片付けの時、服のたたみ方まで指導してきて』
『あいつほんと・・・』
『やっぱ柿本らしいよな』
え?
『そうそうさすが』
????
寮長とルイの話を聞いていた周りの寮生は口々にそうつぶやいていた。
訳がわからず、キョトンとするルイに、
『剛ってさ、強面の見た目から、昔からよく誤解されてきて、
自分なりに人を寄せ付けないようにしているんだ』
『え・・・』
『でも寮内の皆は知ってるんだ。剛がおせっかいでお人好しだってことに』
『そうなんですか』
意外だった。
この寮内は皆強しの良さを分かってた。
『あいつの影のあだ名、今度教えてあげる』
また笑いながらそういう寮長。
(いったいどんなあだ名を・・・)
吹き出しそうなのを我慢しながら、
寮長はルイに教えてくれた。
『え、でも嫌われていなら、何で今まで同室の奴が決まらなかったんですか?」
『あいつ実は人気者だから、一人を同室にすると妬まれるからさー』
『ええ・・・何その理由。じゃあ僕は?』
『君は大丈夫だよ』
『何でですか?』
『君くらい可愛かったら誰も文句ないし』
『・・・は、はあ』
『とにかく仲良くしてやって。君となら上手くいくよ』
(ルイくんの顔、剛のドタイプだし)
ーーーーーーなんてやりとりを、ルイは思い出していた。
「佐々木、ロフトベッド上と下どっちがいい?」
剛はすでに下を使っていたが、あえて聞いてくる所、
気を使ってくれているんだろう。
「柿本くん下使ってるんでしょ?」
「上に上がるのめんどくせえから下使ってるだけだ。
お前が下が良ければ上使うし」
「上でいいよ」
「そうか」
いや、どんだけお人好しだよ。
おもわず口に出して言いそうになったが、
ルイはあえて口をつぐむ。
学校でも同じクラスになったルイと剛。
寮とは対象的に、学校では寮に入っていない生徒もいるため、
剛は相変わらず強面と勘違いされていた。
学校で話しかけてくるのは、ほとんどが寮生や以前剛と関わった事のある人物のみ、まだ剛に対しての勘違いが起こっている。
かくゆう剛も学校ではあまり発言をしないため勘違いを生んでいるのは剛自身とも言える。
(自分で原因を作ってるじゃないか)
ルイは転校そうそうから、女子に人気になった。
可愛いルックス、ハーフというブランド性に女子はメロメロだった。
でもそれは気にすることなく、
放課後ルイは、教室の後ろの席にいる剛に近寄り、
「一緒に帰ろう、柿本」
気軽に誘うルイの言葉に、教室はザワついた。
剛本人もまた、教室でルイに声掛けられてビックリしていた。
「佐々木くん、ちょっと!」
と、クラスの女子たちがルイの腕を引っ張り、少しだけ離れて小声で、
「柿本くんのこと怖くないの?」
その言葉にルイはきょとんとして、
「柿本が?どのへんが?」
「だって、金髪メッシュだし、ピアス6個もしているし」
「そんなの今どき珍しくないでしょ」
「そ、そうだけど・・・」
「あいつになにかされたわけじゃないでしょ?なのにそんなに怖がるのおかしいよね?」
ルイのはっきりと言い切るその言葉に、
女子たちは呆然としていた。
「うるせえな」
と、ぶっきらぼうに席を立ち一人で帰ろうとする。
「まって柿本!」
と入口を出た所で剛の腕を掴んで彼を引き止めるルイ。
あまり目立ちたくない剛は、一刻も早く教室を出たかった。
「一緒に帰ろう」
「一人で帰れよ」
「僕実は方向音痴で、寮まで行けるか不安なんだ」
「・・・・」
その言葉に黙る剛。
はあっと溜息を吐いて、
「・・・早くしろ」
観念して振り向かず、ルイを待つ剛。
「うん」
ルイは嬉しそうに鞄を持って出口へ。
「じゃあまた明日」
さっきの女子たちにそう言って、剛の後について行った。
2人のやり取りを見て、教室内の生徒は呆然としていた。
「お前、教室ではあまり話しかけるなよ」
返る道すがら、剛はルイに苦情を入れた。
「どうして?」
本当に何も分かっていない様な顔をしている。
「俺と関わると孤立するぞ」
「しないよ」
「お前さ・・・」
ルイはムカッとして、
剛の腕にガシッとしがみつき、
「やだ」
むくれた顔をする。
その顔がまた可愛くて、
剛はルイから顔をそむけ一人ひそかに悶絶する。
ルイは剛と歩きつつ、ふと視線を感じて振り返る。
数メートル先の物陰に少しだけ見えた人影が消えてった。
(やっぱりここにも、来てるのか・・・)
ルイは不安になり、剛の腕を掴む手に力を込めた。
ルイは前に学校でストーカーに悩まされていた。
見た目が可愛いルイは男女共にモテていた。
その中で一人だけ、屋上に呼び出してルイに告白してきた男がいた。
糸井 アイル。
ルイと同じ外国人とのハーフで共感から恋心、
そしてそれがいつしか執着に変わっていった。
彼の告白は断った。
その日からつきまといが始まった。
家まで押しかけてきて、ラブレターをポストに入れていた。
毎日毎日無言電話も多くて、
それがだんだん怖くなり学校に相談して、
転校することになった。
この学校に転校してきて、
寮長にはすべて打ち明けていた。
なので、そんな理由もあり剛と同室になったのもある。
「どうした?」
少しだけ不安な顔をするルイに、
疑問を持ち声かける剛。
ルイはハッとして、
「なんでもない」
無理やり笑顔を作る。
剛は周りを気にするルイの視線に、
何だかただ事ではない用に感じた。
「お前さ、片付けろよ・・・」
ものが出しっぱなしで、勉強するスペースのないルイの机を見下ろし、
呟いた。
ルイは、あははと笑い、
「一度出すと、仕舞うのが面倒で、あはは」
「あはは、じゃあねえよ。片付けろ」
「はい」
仕方がなく剛も手伝って片付ける。
食堂で夕食を食べながら、
「お前なんか隠してねえ?」
向かいの席に座りカレーを食べながら、剛はルイを問いただしていた。
ルイは、一瞬ギクッとした顔をして、
「ないよ」
「ふうん」
剛はルイが何かを隠している事に気が付いているが、
あえて追求はしないでおいた。
翌朝、
剛がロフトベッドの下で、いつものように眠っていると、
(・・・なんか、あったかいなぁ・・・)
とまどろみながら、
ふと目を開けると、
ルイが剛のベッドで寝ていた。
夜中のうちに潜り込んでいたのか、ルイは剛の胸に顔を埋めてスヤスヤと眠っていた。小柄なため剛の腕の中にすっぽり収まっている。
「おい・・・何一緒に寝て・・・」
毒づく、一応小声で。
ルイはしっかりしがみついている。
「う〜ん」
しかもうなされていた。
「・・・」
やはり何かあってこの学校に来たのか・・・
考えれば、転校してくるタイミングも不自然だ。
剛はルイの背中をさすってやる。
するとうなされていたルイが段々と落ち着いていく。
観念して剛はそのままルイを抱えて眠る。
目を閉じながら、
(しっかし、色白でよく見るとエロいな・・・)
と、内心やらしい想像をする。
いや、いかんいかん。
剛はエロい想像をやめて、股間を落ち着かせた。
ルイは、目を覚ました。
夜中時々ストーカーの夢を見てうなされる事がある。
昨夜も怖い夢を見て目が覚めて、
トイレに行った後、思わず剛のベッドに潜り込んでいた。
安心して眠れる気がして。
剛の腕の中は大きくて、暖かくてほっとした。
彼はぐっすり眠っていて、忍び込んでも起きない。
こんなにいい男なのに、彼女がいないなんて信じられない。
誤解で人付き合いが上手く出来ていないんだなと感じた。
もっと、剛の良さを皆にわかって欲しい。
「起きろ」
時間になりルイが目を覚ました時、剛はすでに起きて着替えていた。
それにちゃんとロフトの上で眠っていた。
剛が運んだらしい。
「土曜だからって、遅くまで眠っていると、飯食いっぱくれるぞ」
優しく起こしてくれる。
「土曜日は門限なしだから、遊びに言っても良いんだよ」
と、遅い朝食を取っていると、2人が居る席に近寄ってきて、
ニコニコと笑う寮長の耕助。
それを半眼で見つめる。
「・・・暇なんですか?アンタ」
「失礼だよ、つ・よ・し」
とニコニコしながら寮長は、剛の頰をつねる。
「イテイテイテ」
寮長は、今度はルイにほほえみ、
「この周辺案内してあげる。俺と剛で」
「ちょっと」
勝手に決められ、抗議する剛。
2人のやり取りを見て、
「ありがとう」
ふふっと笑うルイ。
その顔を見て剛と耕助は顔を見合わせる。
その後、3人で寮の周辺を歩き回る。コンビニの場所や日用品はどこで買っているとか。皆が行きつけの定食屋など、勉強で忙しいため中々遊ぶ場所は電車で行かないとならない。
そんな3人を遠くから見つめるハーフの男。
「ルイ・・・見つけた」
男はニヤッとと笑った。
日曜の夜、
ルイと剛は寮長に勉強を教えてもらっていた。
「はあーっ、疲れたぁ」
剛は苦手な英語の練習問題を一時間掛けてようやく終わらせた。
「75点だな」
答え合わせをし終えて寮長が採点して剛に答案用紙を返す。
「ギリギリかぁ・・・」
力尽きて、テーブルに突っ伏す剛。
そのとなりで平然と答案用紙をスラスラと解き、寮長に渡す。
「すごい満点」
「ええっ」
「ありがとうございます」
ルイは前の学校では常に学年一位だったほど頭がいい。
剛は頭を抱えて、
「あー・・・数学と英語意外は大丈夫なんだけどなぁ」
剛も、他の教科はA判定だが、数学と英語だけは手を焼いていた。
「勉強すれば大丈夫だよ」
「・・・出来ねえよ」
食堂のテーブルに突っ伏して泣き言をいう剛の頭をルイは撫でた。
急に撫でられビックリする剛。
「大丈夫だってば」
見るとルイはニコッと微笑んでいる。
(・・・くそかわ)
ルイの可愛さに悶絶しながら、
食堂の時計を見て、
「そろそろ大浴場の使用時間終わるな」
「勉強はお開きで早く言っておいで」
「やったー」
剛は片付けをして、席を立つ。
「じゃあ僕道具持ってってあげるよ」
「え、お前大浴場いかないの?」
「今日は部屋のシャワーで良いや」
と、ルイは剛の道具を一緒に運び、一人部屋に戻る。
暗い、
剛との部屋。
ここでどれだけ助かっているだろうか。
前の学校での恐ろしい出来事を思い出し、
ルイは一人で部屋へ戻ってきた事を後悔した。
暗闇はあの時のことを思い出してしまう。
糸井アイルに押し倒された時のことを、
ヤツはナイフを持っていた。
耳を滑られ、首を触られた。
『お前は俺のものなのに』
暗闇で光るあいつの蒼瞳がとても怖かった。
家で襲われたため親が帰ってきて止めてくれた。
警察を呼んで、アイルは児童相談所に連れて行かれた。
その後奴がどうなったのかは分からない。
キイ・・・
部屋のドアがゆっくりと開いて、
剛が帰ってきたと思い、
ルイは振り返った。
そこには、彫刻のようにきれいな顔をした男が立っていた。
青い瞳が光っていた・・・
ルイの心臓がドクンと音を立てる。
手が震えてくる。
「やっと、見つけた」
男は冷たい笑みを浮かべた。
そのままルイを押し倒し、
「会いたかった僕のルイ」
ルイは恐怖で声が出ない。
ただ目の前にいる男が、怖い。
ルイを押し倒しその上にまたがる。
彼の両腕をこれ以上ないくらい強い力で掴んでくる。
「逃さないよ」
ギラギラとした視線がルイを捕らえる。
全身がガクガクと震えだす。
(怖い怖い怖い・・・)
「おらぁ‼」
バンッ‼
大きい音と共にルイが目を開けると、
目の前にはルイを守るようにアイルとの間に立ちはだかる剛の背中と、
その向こうの部屋の外の廊下の壁に叩きつけられて倒れているアイルの姿。
「何だてめえは!何してやがる」
どうやら剛がルイからアイルを引っ剥がして、廊下の壁に叩きつけたようだ。
「つ、剛・・・」
「こいつ寮生じゃねえよな」
剛はそのまま気絶しているアイルを持っていたタオルで縛り付ける。
「大丈夫か!」
近くの部屋の寮生が出てきたので、
「不法侵入だ。寮長呼んでくれ。あと警察も」
「わ、分かった」
そのまま廊下を走っていく寮生。
「大丈夫か、柿本」
「ああ、おれは平気」
近くの寮生に声掛けられ、それに返事をして
部屋の中で、震えるルイを見つめ、
「大丈夫か?」
剛はそのままルイの背中に腕を回し、彼の背中を撫でる。
その優しさにルイは、
「・・・剛」
彼の名を呼んで、彼にしがみついた。
震える手で。
剛は彼を安心するために彼の背中をポンポンと叩いて落ち着かせてやる。
その後警察がアイルを連行していった。
その後、寮長である耕助が警察に説明し、ルイと剛も事情を聞かれた。
食堂には、寮長と剛とルイ。
耕助はルイから聞いていたアイルの話を、剛にも説明した。
ストーカーに悩まされたルイが転校をしてきたこと、
アイルは警察の保護観察処分を受けていた事。
「最初はただの友達だったんだ。
同じハーフで共感するところもあった。
でも、それがいつしか執着に変わって、
僕を、つけねらうようになって家に嫌がらせをされて、
家族にも迷惑がかかるから、
もう家にはいられなくて・・・」
「それで寮制の学校に・・・」
その言葉にルイはうなづく。
「でもそれで今度はこの寮に迷惑を掛けて」
と、下を向くルイ。
「お前は悪くねえだろ」
剛がはっきりと言った。
ルイはビクッと肩を跳ねさせる。
「あんな勝手なヤツのために、お前が怯えて暮らすのは間違ってる」
そう、はっきりと告げる。
ルイの目を真っ直ぐ見つめて。
「でも、相手は普通じゃないからな」
と、耕助は腕を組む。
確かに・・・。
平日は門限があるため関係者以外が寮内に入るのは難しいが、
土日は門限がないため、鍵は開いていた。
ヤツはそれを狙っていたのかも知れない。
という事は侵入する前から下調べをしてこの寮内に入ったと思われる。
とりあえず今回は逮捕されたるだろうが、
またいつ狙ってくるか分からない。
このままじゃダメな気がする。
「とりあえず今日は休もう。明日学校と話をしよう」
と耕助は2人を部屋を戻らせる。
剛はルイと部屋へ戻った。
ゆっくりと部屋へ入るルイ。
「大丈夫か?」
「・・・うん」
さっきの怖さより、気が付いた時目の前にあった剛の背中を思い出した。
あんな頼もしい背中が今まであっただろうか。
「剛」
「ん?」
「下のベッドで眠って良い?」
(上は怖いのか・・・)
天井がある方が安心するのかも知れない。
「分かった、じゃあ俺上で寝る・・・」
「剛も下でいいよ」
「ん?」
「下でいいよ」
「・・・・」
「下で寝て」
「・・・えっと」
何故か言いなりになる剛。
一人で眠るのが不安なのだと言いきかせ、
仕方がなく、いや、仕方がなくはないが、
剛は壁際に寄って、ベッドに横になる。
開いたスペースにモゾモゾと入ってくるルイ。
(・・・照れるな俺)
内心ドキドキしながら、
剛はルイに背中を向けて目をつぶるが、
ぐいっと身体を引っ張られる。
「なっ、お前何して・・・」
背中を向けていたのに、腕を引っ張られ強引にルイの方に身体を向けられる。そしてルイは黙って剛の胸に抱きついて横になりバサッと強引に布団をかぶる。
「お前な」
「黙って寝て」
「・・・ったく」
ルイも照れながら、こちらに顔を向けずにくっついてくる。
恥ずかしくて怖いとは言えないのかも知れない。
剛の頭をポンポンと撫でながら、観念して眠る。
「くそかわ・・・」
剛のつぶやきに、ルイは彼の顔を見ずに、
「・・・声に漏れてるよ。いつも」
「何が」
「くそかわって」
「・・・え」
(いや、そんなわけないだろ)
「多分声に出してるつもり無いんだと思うんだけど、
・・・・・いつも声に出てるよ」
「・・・」
ルイは剛の顔を見上げる。
完全に真っ赤になっていた。
見られているのに気が付いて、
「見るな、寝ろ」
そう言って自分の胸にルイの顔を埋めさせる。
大事そうに彼の頭を撫でる。
嬉しそうにフフッと笑いルイは安心して眠りについた。
翌日、月曜日
起きた寮生たちはザワついた。
寮の一部の窓ガラスがバキバキに割られていた。
「今事務室に電話があって、昨日のストーカーが連行される前に脱走して行方不明になったそうだ。
一気に緊張が走った。
「僕のせいだ」
呟くルイに、
「お前のせいじゃねえよ」
ルイの肩をガシッと掴んではっきりそういう剛。
食事を終えて、先に部屋に行くと言ったルイ。一人で行動するのは危険と考え部屋で待ってる様に伝えた。
トイレに行ってから、部屋に戻るとルイの姿はなかった。
スマホが鳴る。
『先生に呼ばれたから先に言ってます』
「ったく」
心配になり、剛は耕助と一緒に急いで学校へ向かった。
職員室に行くと、
「え?佐々木ルイ?誰も呼んでないけどな」
「・・・え?」
てことは・・・
「失礼します!」
「ちょっと、何があったんだ?」
担任の先生にそう問われるが
「寮長にきいてください!」
行って走ってく剛。
耕助は先生に詳しい説明を始めた。
「くそっ、あいつどこ行って」
階段の踊り場で、剛は肩で息を吐く。
「邪魔だな、君」
「え」
ズンッ
剛の背中に衝撃が走った。
「君、もうルイにつきまとわないでね」
アイルは血の付いたナイフを手にその場を去る。
その場には、
床に倒れる剛だけが残された。
脇腹からは、血が滲んでいた。
ルイは職員室に行っても誰も呼んでいないと言われたので、
仕方がなく教室に行った。
少し早かったため、教室にはまだ誰も居なかった。
教室に入ると、
そこにはアイルがいた。
ルイは一瞬息が止まった。
アイルはもう笑っていない。
手には小型のナイフ。
その先には血が付いていた。
「ルイの友達は強いね」
ドクンと心臓が鳴る。
「昨日も僕を投げ飛ばした」
剛の事を言っている。
まさか、
その血って、
「でもさすがに死んだかな」
そういって、血の付いたナイフを撫でる。
『剛に、何した・・・?」
「彼は剛君って言うんだね。かっこいいよねまるで君の王子様だ」
「何をしたのかって聞いてる」
「刺してやった」
その言葉に頭が真っ白になる。
刺した?
剛を?
嘘だ、そんなの。
ルイは震える手をもう片方の手で抑える。
涙がどんどん溢れていく。
アイルは、
「君の味方は僕だけだ」
ゆっくりとルイに近づき、彼を押し倒す。
血の付いたナイフを彼の顔に向け、
「僕らは唯一の仲間じゃないか」
きっと同じハーフで苦労した事をいっているんだろう。
アイルは綺麗な容姿のせいで、酷いいじめにあっていたらしい。
ルイだけが初めて見つけた同士だった。
だから無くしたくなかった。
自分だけのものにしたかった。
「アイル」
押し倒されながら、
ルイは覚悟を決めていた。
真っ直ぐに彼を見つめ、
「たとえ死んだって、僕は君のものにはならないよ」
自分でも驚くらい冷静だった。
「君を好きになることはない」
はっきりと告げられ、
アイルの動きは止まる。
ショックを受けたようだった。
目を見開いて、ルイを見ている。
「僕が好きなのは剛だから」
だんだんと生徒が教室に来て廊下で騒いている。
揉めている2人を戸惑って見ていた。
「佐々木!どうしたんだ?」
入口からクラスメイトが叫ぶ。
「邪魔はするな」
アイルが睨んでナイフをチラつかせる。
「入ってくるな!」
ルイは、他の生徒を巻き込みたくない。
クラスメイトはたじろぐ。
ルイはどうせ刺されるのなら、
そのままアイルの動きを止めることが
できるかも知れないと思っていた。
「お前が悪いんだよ。ルイ。僕から逃げるから」
そう言ってナイフの先で、ルイのシャツの上のボタンを一つ千切る。
シャツから見えるルイの肌をじっと見て、
「ああ・・・その肌に触りたい」
アイルの股間が反応していく。
アイルは一人で興奮していた。
こいつに犯されるのなら死んだほうがましだ。
「これからも一緒だよ」
と、アイルはルイに向かってナイフを振り上げた。
ルイは目をつぶる。
その時、
「このストーカー野郎がぁ‼」
ガダダン‼
ルイが目を開けると、
遠くに飛ばされてめちゃくちゃになった机と椅子の中に投げ飛ばされるているアイル。
ルイの目の前には、
剛が立っていた。
「剛・・・!」
喜んだが、剛の脇腹から血が滲んでいるのを見て、ゾッとする。
多少ふらつきながらも、
「お・・・まえ、死んでなかった、のか」
投げ飛ばされ倒れたまま、アイルは呟いた。
「はっ、ガテン系大工の息子舐めんな!」
平気な顔をしてアイルを睨む。
だが、足元がおぼつかないが何とか踏ん張って立っている。
「こんなやりかたして、相手が自分を好きになるわけねえだろうがっ!」
大声でそう叫んでいた。
「惚れた相手に恥じねえ自分でいるのが男ってもんだろ!」
剛のまっすぐな言葉に、周りのクラスメイト達が理解する。
彼の熱い心を、心の強さを。
アイルはなんとか立ち上がろうとする。
剛はしっかり立ち尽くす。
ルイには絶対に触れさせないというかの様に。
だが、
『行けー‼』
廊下にいたクラスの男子が複数人一斉にアイルに飛びかかった。
重くてアイルは動きが取れない。
それを見て、剛はふらふらと倒れ込んだ。
「ってえ」
一気に脱力して脇腹の痛みが感じるようになった。
「剛!」
駆け寄るルイ。
剛はそのまま気を失った。
数時間後。
剛はゆっくりと目を覚ました。
「う・・・」
どうやら病院のようだ。
側には寮長である耕助と、ルイと、担任の先生がいた。
「剛!」
ルイは即座に剛に抱きついた。
急に抱きつかれ、
「痛てぇって」
「ご、ごめん」
慌てて離れる。
「あいつは逮捕されたよ」
耕助は少しだけ微笑んでいった。
でも刺された剛が心配なのか、いつもの軽い反応ではない。
「お前らなぁ、ちっとは俺たちに相談しろよ!」
担任の先生が少しだけ怒る。
剛は冷静に、
「だって昨日の今日だったし」
「お前いっつも自分で解決しようとするけどな、
もう少し人に頼る事を覚えなさい」
(そんな事初めて言われた)
先生は続ける。
「クラスの皆も心配してるぞ」
「あいつら、すごいな」
アイルを一斉に取り押さえた時は本当にビックリした。
「すごいのはお前だよ」
そう先生が口にする。
ふと見ると先生は剛に言ったようだった。
剛は自分に言われたとは思っていなかったので、
きょとんとした。
「え」
「お前に言ってんだよ。剛」
耕助も同調する。
皆が剛を見ていた。
その視線に、剛はたまらなくなる。
あまりにも皆が優しい目で自分を見つめるから。
「お前もっと、自信もてよ。
剛が思っているより、周りはお前のことそんなに悪く思ってないよ」
先生が優しく言う。
「見た目が少し怖かっただけで」
「おい」
皆が笑う。
剛はだんだんと眠くなって、
「ありがとう・・・」
お礼をいって、眠りについた。
再び目を覚ますと、
夜中の病室だった。
傷の痛みは薬で押さえられていた。
そんなに深くはなかった為、3日ほどで退院できると言っていた。
ベッドの横にはルイがいた。
椅子に座ったまま、上半身はベッドの上にうつ伏せになっている。
剛は愛おしそうにルイの頭を撫でた。
思えば、ルイが来たお陰で、
色々な気づきを得た。
あんなに思い切り思ったことを口にしたのはいつぶりだろうか。
自分の思いを口にするのって気持ちいいんだな。
剛は素直にそう思った。
すやすやと眠るルイ。
あいつに傷つけさせたくなかった。
誰にも触らせたくなかった。
「・・・好きだ」
自然に声に出していた。
「僕も好き」
ルイが静かに答えた。
ドキッとした。
「起きてたのかよ」
「頭を撫でられた時に」
ルイはうつ伏せになったまま、
剛の手を握った。
ゆっくりとルイは起き上がり、
「ライクじゃないよね?ラブだよね」
小声でそう聞いてくるもんだから、
「惚れてるって言ってんだろ」
小声だがしっかり言い切った。
ルイは、そっと剛に近づき、
剛のくちびるにキスを・・・
しようとしたが、
口を手で押さえられた。
「何してんの」
「今のはキスするタイミングだったでしょ?」
止められて不満だったのか講義の目を向けるルイ。
剛はこれ以上ないくらい照れながら、ルイから視線を逸らす。
「病院だぞ」
「関係ないでしょ」
「おまえ結構しつこいな」
「キスしたい」
はっきり言われて、剛はグッと止まる。
観念した顔をしている剛に、
ルイはゆっくり顔を近づけて、そっとキスをした。
照れてる剛が可愛くて、ルイはちょっと強引に口を開けさせ舌をいれていく。
「んんっ」
気持ちよくて受け入れる剛。
しばらく舌を絡ませて深く深くキスして・・・
「っ病院!」
「へへっ」
嬉しそうに笑うルイ。
その可愛い笑顔ですぐ許してしまった。
退院して学校に戻ると、
教室の雰囲気が変わっていた。
「おお、おはよう柿本!」
「もう退院したんだ。傷深くなくて良かったな」
クラスメイトが次々と自分に声をかけてくれて戸惑った。
「お、おはよう」
なんとか返事をする剛。
目は点になっている。
隣りにいるルイに腕を引かれ、
「皆こないだの剛が、カッコ良かったって」
「え」
教室で暴れた事を、自分では後悔していた。
でも、周りは違った。
怪我しながらもルイを守ったり、
ナイフを持ったヤツ相手に向かってたのがカッコよかったと、
印象は一変していた。
もう誰も剛を怖いと言うやつはいなかった。
「でも、柿本って熱い男だったんだなぁ」
「え」
「そうそう、一途なんだな」
そう言われて自分があの時言った言葉を必死で思い出そうとするが、
必死だったせいか自分が何を言っていたのか覚えていない。
顔を青ざめて、ルイの方に顔を向け、
「え、え、俺なんて言ってた!?」
するとルイは照れた顔をして、
「教えない」
照れながら上目遣いで答えて自分の席に行くルイに、
「え、ちょっと!俺なんて言ってたんだよ?」
「皆、剛に教えちゃだめだよー」
「何で!?」
慌てる剛と嬉しそうにするルイに、クラスメイトは微笑ましく見守っていた。
色々な変化を感じながらも、剛の生活は変化していった。
退院して数日後の夜。
「剛」
ロフトの下のベッドに剛が寝転がっていると、ルイが枕を抱えて降りてきた。おずおずとこちらを見ている。
読んでいた文庫を置いて剛は、
「どうした?眠れないのか」
すると、ルイは小声で、
「夜這いにきた・・・」
その言葉に、
「こいよ」
剛はゆっくりルイの腕を引っ張って自分のベッドに引き寄せる。
最初よりは慣れた手付きでルイの肌を触っていく。
そのままシャツを脱がせベッドに寝かせる。
平気な振りをしていたが、剛はルイに触りたくて仕方がなかった。
前みたいに我慢しなくていいと思うとなおさら。
乳首を舐めても、全身にキスをしても、
拒否されないどころか感じてよがる所がたまらない。
「あ・・・んん」
夜中なので声を殺している。
「あー・・・、お前なんでそんな可愛いの」
今度ははっきり呟く。
「可愛くなんてっ・・・ああっ」
挿れてから、腰を前後に動かして良い所に当たる度にびくっとするルイ。
剛は熱くなりTシャツを脱ぎ捨てる。
そのかっこ良さに、ルイが感じてしまって締め付けられて、
「は・・・」
おもわず声を漏らす剛を見て、
「かわいい奴め・・・」
「え?」
「何でもない」
言ってルイは愛おしそうに剛に、キスをするのだった。
本当に可愛いのは、剛の方だって事を、
これから分からせたいと思うルイだった。
ーーーーーエピローグ
ある日の寮内の食堂。
土曜のため、剛はまだ眠っている。
ルイは寮長と朝食を食べていた。
「そういえば、前に言ってた剛の影のあだ名って、何なんですか?」
ルイは思い出して、訪ねてみる。
「ああ、《オカン》よ」
「オカン?」
ルイはキョトンとした。
寮長があの日笑いながら教えてくれた、寮内での剛のあだ名。
「そ、あいつ見た目強面なのに、中身はお人好しで世話好きで人のこと放っておけないでしょ?・・・だから《オカン》」
「・・・・なるほど」
ルイはニヤける顔を何とか押さえた。
そして妙に納得したのだった。
終
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