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愛しき者の失踪2

 一之宮紫月(いちのみや しづき)の家は代々武道の道場を営んでいる名門どころだ。こちらも鐘崎家同様、師範の一之宮飛燕(いちのみや ひえん)が男手ひとつで育ててきた一人息子の紫月は、現在父の右腕となって共に道場を切り盛りしてくれている頼もしい存在である。母親は紫月を生むとすぐに病によって他界していた。  そんな紫月の良き遊び友達であり、兄的存在でもあったのが鐘崎組の一人息子の遼二だった。  遼二の方が四つほど年上であったが、互いに男親一人という同じような環境で育った為、両家は親子共に家族親戚も同然のような付き合いをしてきたのだった。  遼二と紫月の幼き二人は家も近所でそこそこ同年代、遊び仲間だったということから四六時中を共に過ごし、兄弟のようにして育ったのである。  二人はいつの頃からか幼馴染みという垣根を超えて想い合うようになり、恋仲となったのはある意味自然だったのかも知れない。成長するにつれその想いは確固たるものになってゆき、互いに男同士ではあるが将来を共にしたいと思っている間柄だった。  二人のことは鐘崎家、一之宮家双方の父親たちも理解していて、組員たちからも仲を認められており、いずれは鐘崎組の後継者となるべく誰もがそう思って疑わなかった。  そんな紫月が何の前触れもなく行方不明になってしまったのだ、大騒ぎにもなろうというものだ。

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