二人は香港裏社会の城壁内を治める周焔(ジォウ イェン)ともよくよくの顔見知りであった。裏の世界に生まれ育った者同士、周焔(ジォウ イェン)と鐘崎遼二は歳も同じだった。故に幼い頃から互いの国を行き来して育ってきた仲だ。遼二は真っ向この非常事態を周焔(ジォウ イェン)にも知らせる傍ら、必死になって紫月の行方を追う日々を過ごしていた。 　そんなある日のことだった。香港の周焔(ジォウ イェン)から紫月と思われる男を見掛けたとの情報が寄せられたのだ。しかも、なんと彼が治める城壁内で――という。 　一報を受けた遼二は、組を父親の僚一に任せると、とるものもとりあえず香港へと向かったのだった。 ◇　　　　◇　　　　◇ 　香港、九龍城内――。 「周焔(ジォウ イェン)！　よくぞ知らせてくれた……！　それで紫月は――？」 「カネ、よく来てくれたな！　待っていたぞ」 　焔(イェン)は幼い頃から遼二のことを『カネ』というあだ名で呼んでいる。成人を過ぎた今でも変わらずに『カネ』のままなのだ。遼二の方は『周焔(ジォウ イェン)』とフルネームで呼んだり、たまに『焔(イェン)』と略すこともあるが、二人共に互いを信頼し合っている親友である。普段の時はもちろん、こうして緊急事態に陥った際などには誰をおいても頼り合う仲でもあるのだ。 「実はな、カネ――。一之宮らしき男がいる場所が少々厄介なのだ」 「厄介――？」 「これからすぐに案内したいと思うが、その前に伝えておきたいことがある。実は――その男というのは一之宮とよく似た別人の可能性が高いかも知れんのだ」 「……別人だと？　どういうことだ……」 「俺もこの目で確かめに行ったんだが、ツラは一之宮にそっくりで最初は間違いなく本人だと思った。だが雰囲気がまるで違う。会って話もしたが、俺のことも見覚えがないと言うし、何より性質なんだがな。俺が知っている一之宮のかけらもないと言ったらいいのか……」 「……どういうことなんだ」 　さすがの遼二も困惑させられてしまった。