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愛しき者の失踪5

 時刻は午後の二時を回ったところ、今はまだ各店も開いておらず、開店準備に向けて区内は割合静かだった。  (イェン)が頭取に話を通して紫月らしき男の元へと案内してもらう。 「皇帝周焔、お待ちしておりました。あの子はただいま男娼たちの着替えを手伝っておりましてな。先に住まいの方へご案内いたします」  あと二、三時間もすれば開店だ。街は静かでも店々の中は準備に慌ただしいようだった。  案内されたのは下働きの者たちが住む寮のような建物の一室である。アパート形式になっていて、間取りは狭いが一応のプライバシーは確保されているようだ。待つこと数分で頭取が紫月らしき男を連れて戻って来た。 「皇帝直々のご用事とのことで、今日はもう上がれるよう手配いたしましたので。どうぞごゆっくり」  ――――!  男を一目見た途端に遼二は息を呑んだ。  確かに顔や身体つきは紫月に相違ないが、雰囲気がまるで違う。普段の紫月は朗らかで明るく、人懐こい印象が全面に出ている――例えるならば太陽のような男だが、今目の前にいる彼は目つきからしても冷たく、まるで感情が伝わってこない蝋人形のようなのだ。本物が太陽ならば、こちらはそれとは真逆に位置する冥王星のような印象だった。

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