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ルナと紫月11

「それがな、頭取の話ではどうもその女衒(ぜげん)は一匹狼のようなのだ。組織化すれば手広く商売になるが、分前も同じだけ必要になると言っていたそうでな。ただし、その女衒(ぜげん)が連れて来るのは決まって高値がつきそうな見目の良い若者ばかり――つまりは絶品揃いなんだそうだ」  一口に遊女や男娼の斡旋といっても実際は玉石混合で、使い物になるかは半々といったところだそうだが、その男の目利きは大したもので、外れはまずないという。ゆえに量より質、数は少なくても一回の売買に動く金額もまた大きいらしい。 「それで一匹狼か――。厄介な野郎だな。それで、そいつのツラは割れそうか?」  顔写真でもあれば御の字だが、さすがにそこまでは入手できなかったそうだ。 「頭取の話では、その女衒(ぜげん)はいつも頬被りをしているそうでな。これまで一度も素顔を晒したことはないそうだ。分かっているのは大まかな身長と体格のみだ。目元はサングラスで隠していてよく分からなかったと頭取は言っている」  この時代はまだデジタル技術なども発達していない。カメラといえばフィルムを現像するのが通常だし、仮に防犯用の録画が残っていたにしてもビデオテープなる代物で対応されていた為、当然画質も悪い。 「だが、その女衒(ぜげん)が日本で紫月を拉致して香港に連れて来たのは事実だ。ここひと月の間の出入国を調べれば、必ず突き止められる」  遼二は日本にいる父の僚一に助力を頼み、出入国の履歴を詳しく調べてもらうことにした。

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