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※番外編 皇帝の憂鬱7

「白龍のお兄さん、どうしてるかな……。今日も忙しくお仕事されてたんだろうなぁ。お疲れ様です」 (いやいや、なんの! 忙しくキミのウォッチングに奔走していましたよ!)  というのは遼二と紫月の心の声である。 「僕もお陰様で今日のキャンプとっても楽しかったです! 今日の授業で森の植物を押し花にするっていうのがあって、綺麗な葉っぱを拾ったの。出来上がったらお兄さんにもらって欲しいなと思って……。明日には帰ります。お兄さん、会えるの楽しみにしてますね。おやすみなさい」  まるで空の星に祈るような動作までが伝わってくるようだ。その後すぐに窓は閉められたが、その真下で身を潜めていた焔にとっては堪らない台詞だ。 「くぅううう……! 可愛いことをぬかしやがって……」  まるで子供が地団駄を踏む勢いで嬉々と身をよじってはバタついている。遼二と紫月はやれやれと呆れ顔だ。 「紫月……行こうか?」 「おう! 焔はこのまま置いてっちまっていいべ」  二人が立ち上がって歩き出すも、焔は未だ一人で『くううー!』とやっている。 「あ? あれ――? おい、カネ! 一之宮! 置いてくなって……!」  しばしの後、慌てて追い掛けて来た焔の肩を思い切り両脇からサンドイッチにしてやった二人であった。 「こんにゃろ! 鼻の下伸ばしやがって。焔、おめえ――今のそのツラ、鏡で見せてやりてえ」 「まあそう言ってやるなって、遼! 仕方ねえべ? 皇帝様は今とおーってもお幸せなんだ。伸びてんのは鼻の下ばっかじゃねえよなぁ」  左右から二人にツンツンと突かれ弄られては、柄にもなく頬を染めた皇帝だった。 「バ、バカ言え……! どこの下が伸びてるってんだ」 「そうねぇ、ここいらの下辺り? ってかぁ?」 「バカ! どこ触ってんだ一之宮……!」  紫月にはスイと前を撫でられ、遼二には思い切り尻をつねられて、焔はジタバタ。ますます茹蛸のように真っ赤になりながらも、気付けば再びデレーっと頬をゆるませる。  そんな彼を挟みながら、遼二と紫月は肩をすくめ合い―― 「おいおい、こんなデレた皇帝のツラは城内の者には見せられたもんじゃねえな」 「違いねえ!」  あははは! と声高々に朗らかな笑い声が夜の白泥にこだまする。春爛漫の時がもうすぐそこに迫っているなと幸せを噛み締め合った小旅行だった。 皇帝寝所番外編 - FIN -

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