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第1話 好きでごめんね(2)
その日の放課後。智也と陽翔の二人は、繁華街にあるゲームセンターに訪れていた。
「智也さあ、ずっと静かだけどなんかあった?」
陽翔の問いかけに智也は顔をしかめる。
「だってよ」
「ん?」
「お前な、俺のこと優先してどうすんだよ。フツーは女子からの誘いあったら、そっち優先すんだろうが」
ため息交じりに言うも、当の本人はきょとんとしていた。さも当然、といった様子で言葉を返してくる。
「なに言ってんの。先約は先約でしょ、約束はこっちが先」
「つっても、大した用じゃねーだろ?」
「じゃあコレ、一人で取れるの?」
陽翔がクレーンゲームの景品を指さす。最近流行っているFPSゲームのぬいぐるみだ。未確認生物を模した愛嬌のあるキャラクターで、智也はこれが欲しくて堪らなかった。
「この前、あっさり千円消えたんだよな……ぜんっぜん取れる気がしねー」
だからこそ、陽翔に取ってほしいと頼んでいたのだが。こういったものは彼の方が得意なのだ。
「あはっ、そんなことだろうと思った」
項垂れる智也に対し、陽翔は肩を叩きながら得意げに笑う。そして、こちらが財布を取り出すよりも早く百円玉を投入してしまった。軽快な音楽が流れ始めてアームが動き出す。
「あ、金……」
「いいって。その代わり、あとでハンバーガーでも奢ってよ」
話をしているうちにもアームが下降して景品が持ち上がった。しかし、獲得口へと移動することなく落ちてしまう。
「寄せればいけそうかな」
最初のプレイで見極めたのだろう、陽翔が呟いた。
ぬいぐるみの端を二本のアームで持ち上げながら、少しずつ獲得口へと寄せていく。すると四回目のプレイにして、ついに獲得することができたのだった。
「やっべ、マジかよ!」
ぬいぐるみを陽翔から受け取るなり、思わず智也はぎゅうっと抱きしめた。ふわふわとした手触りが心地よく、細かなディテールの再現度も高い。
「クッソ可愛いなこいつ……ハル、サンキュな」
しばらく堪能したのち、陽翔に向かって笑顔を向ける。陽翔はフッと笑い返してきた。
「どういたしまして。もう、学校でもそんな顔してればいいのに」
「あ? ンだよ?」
「だって、今日もなんかクラスメイト怖がらせてたでしょ? 進級早々穏やかじゃないんだから」
「余計なお世話だっつーの。どこぞの誰かさんみてーに愛想ふりまけるかよ」
智也が吐き捨てるように言うと、陽翔は困ったように眉根を寄せた。
「失礼しちゃうなあ。愛想ふりまいてるつもりなんて、これっぽっちもないですよーだ」
言われなくてもわかりきっている。ただの軽口だ。
陽翔はいつだって、誰よりも智也を優先してくれる。それが嬉しい反面、今回のようなことが多々あって申し訳なくもあった。あんなにも異性からモテているというのに何故自分のことを――健全な男子高校生として異性に関心がないわけでもないだろうに。そう考えて、嫌な汗が流れた。
(まさか……俺に、ハル以外のダチがいねーからか!?)
ガーン、と衝撃が走った。
こちらが陽翔のことを放っておけない存在だと思っていたように、向こうもまた気にかけてくれていたのかもしれない。周囲と馴染めない智也のことを。
陽翔がいればいい――そう思っていたけれど、あくまでも個人的な感情であって、まるで彼の青春を奪っているかのような気分になってしまう。もう高校生活も三年目だし、このままではよくない気がしてならない。
「……ちっとはクラスに馴染む努力するべきか?」
「?」
ぽつりと漏らすと、陽翔は目を丸くしていた。
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