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第1話 好きでごめんね(3)

    ◇  それはもう突然に。性格からして思いきりがいいもので、その日から智也は友人づくりに励んだ。  休み時間になると積極的に話しかけたり、昼食を一緒に食べたり。これまで会話らしい会話をしてこなかった相手であっても容赦などしない。たとえ怯えられたとしても、だ。  と、そのようなことをしていたら、当然のごとく訝しく思う人物がいるもので、 「最近、俺のこと避けてるでしょ。何かした覚えないんだけど?」  登校中、陽翔が不服そうに尋ねてきた。 「あー、《親離れ》ならぬ《ハル離れ》的なヤツな」 「いやいや、意味わかんないって」  こちらの答えに陽翔は呆れているようだ。それもそうだろう、いきなりこんなことをしだしたら驚くに決まっている。が、智也の決意は固い。 「嫌なんだよ――俺が、その……ハルのこと独占してるみてーで」 「はい?」 「お前さ、せっかく女子にモテてるってのに毎回フッてんだろ。俺にかまけてばっかで、そういった素振り一切見せねーし」 「え、ええー……」  正直に打ち明ければ、陽翔の顔に困惑の色が浮かぶ。かといって、ここで引く気もない。 「おいコラ、こっちは真面目に言ってんだぞ。せっかくの高校生活なんだし勿体ないっつーか」 「前から言ってるけど関心ないってば……部活だってあるし。それに俺、智也と一緒にいるのが一番楽しいからいーの」 「そんなの、付き合ってみれば気が変わるかもしんねーだろ」 「智也の場合、悪い意味で気が変わったヤツでしょ。付き合ってすぐ別れ話告げられるような人が言っても、ぜんっぜん説得力ないんですけど」  ぐうの音も出ない。異性から告白を受けて何となしに交際を始めてみたものの、陽翔の言葉どおりの結果だった。女心と秋の空というべきか、はたまた智也としてもあまり思い入れがなかったせいか、すぐに振られてしまった覚えしかない。  陽翔はやれやれとばかりにため息をつく。 「智也は――俺に彼女でも作ってほしいわけ?」  冷めた目で問われてギクリとしたが、今さら引っ込みもつかない。 「まあ、そうなるのかも……な」  言うと、陽翔が眉をひそめたのがわかった。気まずい沈黙のあと、静かにその口が言葉を紡ぐ。 「……なんで、君にそんなこと言われなくちゃならないの」  明らかに怒気を含んだ声だ。昔から喧嘩もたくさんしてきたけれど、ここまで怒りを露わにする陽翔を見るのは初めてだった。 「な、なにマジになってんだよ」 「智也にだけは言われたくなかった。みんな勝手な理想を押し付けてきて……俺、周りが思ってるようなヤツじゃないよ」  もう我慢の限界――そう呟くや否や、陽翔は智也の手首を掴んで自分のもとへと引き寄せた。  気がついたときには唇が重なっていて、智也は驚きに目を見開く。ワンテンポ遅れて陽翔の体を突き飛ばした。 「ちょっ、ふざけんなよ!」 「……キスするの、智也は初めてじゃないんだからいいでしょ」  陽翔の顔に微笑が浮かぶ。その表情はどこか寂しげだった。 「なに、言って」 「俺、智也が好きだよ」  智也が言葉を詰まらせていると、陽翔ははっきりと口にした。  あまりにも唐突すぎて思考が追い付かない。いつも隣にいて、守ってやろうと大切に思っていた――そんな幼なじみに初めて圧倒された。

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