6 / 54

第1話 好きでごめんね(5)

「ほら」 「ん、ありがと」  自動販売機で缶コーヒーを買って手渡すと、陽翔は静かに礼を言った。  二人並んで、ブランコを囲う柵に腰を下ろす。先に口を開いたのは陽翔の方だった。 「懐かしいなあ。この公園、小っちゃい頃によく遊びにきたよね」 「だな。ハルはブランコ漕ぐのすげービビってたっけ」 「智也があまりに勢いよく漕ぐんだもん。あんなの見たら怖くもなるよ」  正直なところ、訊きたいことや言いたいことは山ほどあった。  しかし、いざとなると何を言っていいのかわからない。互いにそうだったのだろう、それからはしばらく沈黙が続いた。 「あのよ、ハル」 「今朝はごめんっ……」  意を決して声をかけた瞬間、陽翔が謝ってきた。彼は俯いて膝の上できつく拳を握っている。 「本当はあんなつもりなかった。もうどうすればいいかわからなくて――あのまま何でもないように過ごして、なかったことになればよかったのにって……ずっと思ってたんだ」  陽翔の声は震えていた。こちらまで胸が苦しくなるのを感じたけれど、事実から逃げるわけにもいかない。 「なかったことになんて、できるわけねーだろ」  真剣な口調で言うと、陽翔がゆっくりと顔を上げた。その瞳は微かに潤んでいる。 「……ごめん、そうだよね」 「俺もお前のことずっと考えてたし、そっちだって。つか、人のこと『好き』つっといて、ハルの気持ちってその程度なのかよ?」 「そんなことっ」  陽翔がすぐさま否定してきた。  何かに堪えるように唇を噛み締めたあと、ゆっくりと続ける。 「そうだよ。俺、どうしようもなく智也のことが好きなんだ――昔から、ずっとずっと好きだった」 「……そっか」 「だけど、俺……まだ智也に謝らなくちゃいけないことあって」  陽翔は一度言葉を切ると小さく息をついた。 「俺さ、智也に彼女ができたとき……その子に対して試すような真似した」 「え?」  意味がわからず固まってしまう。戸惑っていたら、陽翔が目を逸らしながらもぽつぽつと語りだした。 「ちょっと優しくしたらすぐに迫ってきてさ。こんな簡単に心変わりするような子に、智也は渡せないと思ったんだ――俺の方がよっぽど智也のこと好きなのに、って。だから、別れた原因つくったの俺……だよ」 「………………」  あの陽翔が、まさかそのようなことをしていたとは思わなかった。  とっくに過ぎたことだし、責めるつもりも今さらどうこう言うつもりもない。ただ、彼の想いが痛いほど伝わってくるようで、智也には返すべき言葉が見つからなかった。 (ハルは、そんなにも俺のこと……)  強い恋情を抱えておきながら、陽翔はそれを押し殺して単なる幼なじみでいたのだ――一体、今までどういった気持ちでいたのだろうか。  黙り込む智也を見て、陽翔は自嘲気味に笑みを浮かべた。 「ごめん。最悪だ――智也のこと、好きでごめんね」  おもむろに立ち上がって荷物を肩にかけると、そのまま背を向ける。智也は思わず手を伸ばした。

ともだちにシェアしよう!