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第1話 好きでごめんね(5)
「ほら」
「ん、ありがと」
自動販売機で缶コーヒーを買って手渡すと、陽翔は静かに礼を言った。
二人並んで、ブランコを囲う柵に腰を下ろす。先に口を開いたのは陽翔の方だった。
「懐かしいなあ。この公園、小っちゃい頃によく遊びにきたよね」
「だな。ハルはブランコ漕ぐのすげービビってたっけ」
「智也があまりに勢いよく漕ぐんだもん。あんなの見たら怖くもなるよ」
正直なところ、訊きたいことや言いたいことは山ほどあった。
しかし、いざとなると何を言っていいのかわからない。互いにそうだったのだろう、それからはしばらく沈黙が続いた。
「あのよ、ハル」
「今朝はごめんっ……」
意を決して声をかけた瞬間、陽翔が謝ってきた。彼は俯いて膝の上できつく拳を握っている。
「本当はあんなつもりなかった。もうどうすればいいかわからなくて――あのまま何でもないように過ごして、なかったことになればよかったのにって……ずっと思ってたんだ」
陽翔の声は震えていた。こちらまで胸が苦しくなるのを感じたけれど、事実から逃げるわけにもいかない。
「なかったことになんて、できるわけねーだろ」
真剣な口調で言うと、陽翔がゆっくりと顔を上げた。その瞳は微かに潤んでいる。
「……ごめん、そうだよね」
「俺もお前のことずっと考えてたし、そっちだって。つか、人のこと『好き』つっといて、ハルの気持ちってその程度なのかよ?」
「そんなことっ」
陽翔がすぐさま否定してきた。
何かに堪えるように唇を噛み締めたあと、ゆっくりと続ける。
「そうだよ。俺、どうしようもなく智也のことが好きなんだ――昔から、ずっとずっと好きだった」
「……そっか」
「だけど、俺……まだ智也に謝らなくちゃいけないことあって」
陽翔は一度言葉を切ると小さく息をついた。
「俺さ、智也に彼女ができたとき……その子に対して試すような真似した」
「え?」
意味がわからず固まってしまう。戸惑っていたら、陽翔が目を逸らしながらもぽつぽつと語りだした。
「ちょっと優しくしたらすぐに迫ってきてさ。こんな簡単に心変わりするような子に、智也は渡せないと思ったんだ――俺の方がよっぽど智也のこと好きなのに、って。だから、別れた原因つくったの俺……だよ」
「………………」
あの陽翔が、まさかそのようなことをしていたとは思わなかった。
とっくに過ぎたことだし、責めるつもりも今さらどうこう言うつもりもない。ただ、彼の想いが痛いほど伝わってくるようで、智也には返すべき言葉が見つからなかった。
(ハルは、そんなにも俺のこと……)
強い恋情を抱えておきながら、陽翔はそれを押し殺して単なる幼なじみでいたのだ――一体、今までどういった気持ちでいたのだろうか。
黙り込む智也を見て、陽翔は自嘲気味に笑みを浮かべた。
「ごめん。最悪だ――智也のこと、好きでごめんね」
おもむろに立ち上がって荷物を肩にかけると、そのまま背を向ける。智也は思わず手を伸ばした。
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