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第1話 好きでごめんね(6)

「待てよ! 『好き』に、ごめんもクソもねェだろ!?」 「だって気持ち悪いでしょ! 俺がそういった目で智也のこと見てるの!」 「っ、この……ウザってェなあ!」  智也は掴んでいた陽翔の腕を引き、強引にこちらへと振り向かせる。そして、噛みつくように唇を押し付けた。  しばらく重ね合わせてから、そっと顔を離す。陽翔は目を大きく見開いていた。 「とも、や……?」 「ほら、気持ち悪くなんかねーよ。……だから、俺から離れていこうとすんな」  男同士だというのに、自分でも驚くほどに抵抗感がなかった。  呆けている様子の陽翔の頭をぐしゃぐしゃと掻き乱す。陽翔が何かを言う前に、今度はこちらから遮った。 「そりゃ戸惑ってるし、しばらく頭の整理なんてつきそうにねェけど。俺がお前に気持ち悪いとか嫌だとか思うかっての、このバカハル」 「……俺、こんななのに」 「コラ、『こんな』とか言うな。俺はどんなハルだってちゃんと受けとめるし――何よりお前が泣いてんの黙って見てらんないタチなんだよ、昔から」 「――……」  俯く陽翔の瞳から、ついに一筋の雫が流れ落ちる。  彼が泣いているところなんて何年ぶりに見ただろうか。智也は制服の袖口で拭ってやりつつ、苦笑を浮かべた。 「泣き虫なの、まだ直ってなかったんだな」 「恥ずかしいから見ないでよ」 「ハハッ、デカい図体して変わんねーの」 「そんなこと言ったら、智也だって変わんないよ。すぐ手が出るところも、ぶっきらぼうなくせに優しいところも……ほんと変わんない」  昔からそんなところが好きだった――陽翔はそう呟いてから少しだけ微笑んだ。  対する智也はこそばゆさを感じ、ふっと顔を逸らす。 「ったくよ。お前にその気があんなら、俺のことちゃんと落としにかかってこいっての」 「……え? それってどういう」 「そんくらい察しろよ。さっき言ったこと、もう忘れたのかよ」  それが精いっぱいの答えだった。乱暴な口調で言ってのけると、信じられないといったふうに陽翔が動揺を露わにする。 「ちょっ、そんなのあり!? 普通、友達としてしか見られないとかそういうっ」 「俺がいいつってんだから、いいだろ。それとも、ハルは文句あんのかよ?」 「ない……けど」 「なら、そーゆーことで。話もついたところでとっとと帰ろうぜ、腹減ったわ」 「ま、待ってよ! 智也っ」  話はこれで終わりだ、とばかりに後ろを振り返ることなく歩き出す。陽翔が慌てて追いかけてきたけれど、足なんて止めてやらなかった。 (あークソッ、俺もどうかしてる……なんでこんな気持ちになってんだよ)  気恥ずかしさで胸がいっぱいになる。幼なじみからの突然な告白に困惑しつつも、その気持ちに応えてみたいと感じている自分がいるのだから。  どうしてそのような考えになってしまったのか、智也自身にもわからない。が、きっとそのうちわかる日が来るはずだ。  これから先、自分たちの関係は変わっていくのだろう――ドキドキという胸の高鳴りに、今までにない恋の予感を確かに感じたのだった。

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