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第2話 猥談と夜のおふざけ?(1)
高校二年生の夏。結城陽翔は、初めて失恋というものを味わった。
「そういや俺、彼女できたから」
「え……」
放課後、下校している最中のことだった。
隣を歩くのは幼なじみである坂上智也。一瞬、何を言われたのかわからなくて、陽翔は耳を疑った。
彼女できたから――頭の中でその言葉を反芻する。それはつまり、長年想いを寄せていた彼が、ついに誰かのものになってしまったということ。
いつかこんな日が来ると思っていたし、自分の感情に気づいたところで失恋は免れないと気づいていた。しかしいざ現実を突きつけられると、やはりショックを隠しきれない。
訊けば、相手はクラスメイトの女子だという。告白されて付き合うことになったらしいが、クラスが違う陽翔にとって顔も名前も知らない相手だった。
陽翔はぎゅっと拳を握ると、震えそうになる声で言葉を返す。
「へえ、そうなんだ。おめでとう」
本当は祝福の言葉など言いたくなかったけれど、智也が幸せになれるのなら邪魔はしたくない――そう考えて必死に笑顔をつくった。これでも嘘は得意な方である。
「もうキスとかした?」
「まあ……」
男友達らしい他愛のない会話。からかうように陽翔が尋ねると、智也は平然と答えた。いや、それどころか、
「つーか、もうヤッた」
とんでもない発言が飛び出した。
陽翔は全身の血の気が引いていくような感覚を覚える。智也が異性を抱いている生々しい光景を想像してしまい、あまりの嫉妬心に息が詰まりそうだった。
「そ、そういうことまで人に言うの、どうかと思うんだけど」
なんとか笑い飛ばしてみたものの、引きつった笑顔を浮かべていたと思う。が、智也は特に気にしていない様子で答える。
「バッカ、こんなのハルにしか言わねェに決まってんだろ」
智也にとって、自分は間違いなく特別な存在なのだろう。
ただ、その“特別”という形が、こちらとは違うことを思い知らされてしまう。幼なじみとして良好な関係を築けているにすぎないのだ。
(……胸が痛い)
恋なんて決して綺麗なものばかりではない。ときに切なく苦しく、人に言えないような醜い感情を抱いてしまうことだってある。
だからこそ、この想いは絶対に隠し通そうと決めていた。
――そう、その頃は考えもしなかったのだ。当の本人が否定も肯定もせず、ありのままの自分を受け入れてくれるだなんて。
◇
例の告白から数日が経ったものの、二人の仲は以前と特に変わらなかった。
「やっと素材集め終わった……悪ィな、ハル。何度もレイド付き合わせて」
「いいよ、これくらい。イベント間に合ってよかったじゃん」
その日、陽翔は智也の家に遊びにきていた。
いつものように夜遅くまでゲームをして遊んでいたのだが、そんなものどうだっていい。問題はこれが泊まり込みで、さらには智也から誘ってきたということだ。
夜も更けて部屋で二人きり。Tシャツにハーフパンツ姿の智也は、ベッドの上で胡座をかいている。風呂上がりで髪はまだ湿り気を帯びており、清楚感のある石鹸の匂いがほのかに漂っていた。
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