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第3話 アオハルな僕ら(2)
奢ってやるから、と連れていかれた先は、食べ放題の焼肉チェーン店だった。これだから智也はズルいと思う。
「ほんとに奢ってもらっちゃっていいの?」
「遠慮してどうすんだよ。ほら、ハルも好きなの頼めって」
「う、うん……ありがとっ」
注文を済ませると程なくして肉が運ばれてきて、思い思いに注文した品を網の上に並べていく。じゅうっと焼ける音とともに香ばしい匂いが立ち込め、二人は夢中になって食らいついた。
しばらく食事を続けるうち、智也が思い出したように呟く。
「弓道、随分と上手くなったよな」
「ん? ああ、そうかもね」
弓道を始めたのは中学生のときだ。
小学生のときは智也と一緒がよくて、バスケットボール部に所属していたものの、なんとなく性に合わず――以来、どうしようかと思ったのだが、
『お前、ああいったの似合いそう』
そう言って智也が指さしたのは、弓を引く弓道部員の姿だった。
たまたま弓道場の横を通りがかっただけで、何気ない言葉だったと思う。けれど、好意を寄せている相手から、そのようなことを言われたら気になってしまうもの。気づけば、入部届を出している陽翔がいたのだった。
(……なんて人には言えっこないし、智也も覚えてなさそうだけど)
今でこそ思い入れや熱意だって十分あるが、不純な動機で入部した事実に苦笑するほかない。
対して智也は、箸を止めてまっすぐな眼差しを向けてきた。
「ハルの姿、弓道場の外から見たことあんだけど――」
「えっ、うそ! いつの話!?」
「いや、何回もあっけど」
「そんな……い、言ってよ!」
「いちいち言えっかバーカ。この前だって女子に混ざって見てたんだぞ、ハズいわ」
弓道の大会は観覧席があっても関係者に限られていたり、なかには安全上の理由から観覧禁止にしている会場もあったりする。なかなか大会の観戦ができないぶん、普段の練習を見に来てくれていたのだろう。
(ちゃんと見ていてくれたんだ)
智也は『随分と上手くなった』と口にしていた。ということは、中学の頃からずっと見ていてくれたというのか。
「見てて、どうだった?」
話の続きを促すように陽翔が訊ねると、智也は照れくさそうな顔をする。
「どう、って……男から見ても惚れ惚れしたっつーか、一つ一つの動作がとにかく綺麗で――ハルが一番カッコよかった、と思う」
智也の言葉に、陽翔は胸がいっぱいになった。
自分がこれだと思う射形が見つかるまで随分と時間がかかったし、それを身に付けるために何度も繰り返し練習した。
弓を引くのは自分のためであって、決して誰かのために弓を引いていたわけではない。けれど、一番認められたい相手に「カッコよかった」なんて言われたら、男として嬉しいに決まっている。
「ンだよ、ぼんやりしやがって。人がせっかく褒めてんのに」
「……いや、智也に『カッコいい』って言われるとは思わなくて。はは、すごく嬉しいや」
「っ、言うんじゃなかった」
「ええっ!」
智也が舌打ちして肉を頬張る。こんな調子では、まだまだ彼を振り向かせるのは難しそうだった。
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