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エピローグ これからも、隣にいる君
季節は巡って、三月。志望校の進学も無事に決まり、智也たちは卒業式の当日を迎えていた。
式が終わると、校舎の前は人集りでいっぱいだ。卒業生らはそれぞれ友人と写真を撮ったり、思い出話に浸ったりと思い思いの時間を過ごしている。また、在校生が花束や記念品を手に忙しく動き回っている姿も見受けられた。
そんななか、一際大きな歓声が上がっているのは、
「あの、ちょっと通してくれるかなっ」
学園の王子様こと陽翔の周辺であろう。陽翔は女子生徒に取り囲まれており、なかなか前に進めずにいた。
智也はというと――つい陽翔のことを置き去りにしてしまったのだが――困り果てたように眉尻を下げる姿に見兼ねて、踵を返すことにした。そして、輪の中へと足を踏み入れる。
「おいハル、遅ェぞ」
「智也!」
手を差し出せば、陽翔は嬉々としてそれを掴んできた。すかさず智也は集団から引っ張り出してやる。
「わーっ、助かったあ!」
安堵の声を上げる陽翔だったが、それも束の間。すぐにまた女子生徒に囲まれてしまった。
しかし、陽翔はどこ吹く風といった様子で思わぬ行動をとる。
「ごめんね! 俺、一生を誓った人がいるから!」
そう言って、智也の肩を抱いてきたのだ。
たちまち黄色い悲鳴が飛び交う。智也はぎょっとして目を見開いた。
「はああっ!? お、おい、ハル!」
「行こ、智也っ」
慌てて声を張り上げるも何も意に介さず、陽翔はニコニコとするばかりだ。
そのまま智也は引き摺られるように連行され、あっという間に正門の外まで連れ出されてしまう。
ようやく立ち止まると、陽翔が声を上げて笑い出した。
「あははっ、みんなの顔見た? すっごく驚いてたよね」
「な、なんつーこと言うんだよお前! 驚くどころじゃねーだろ!?」
「だって、智也と付き合ってること言いたくなっちゃったんだもん。どうせもう会わないだろうし」
「いや、同窓会に参加することになったら会うだろ」
あっ、と陽翔が声を上げた。すっかり忘れていたという顔をしている。
「まあ、その場しのぎの冗談だと思ってる人がほとんどじゃないかな。もし信じてたとしても、そのときは見せつけるまでっていうか」
「見せつけんのかよ……」
呆れ気味に呟けば、陽翔はにっこりと笑みを浮かべた。こちらの手を取って指を絡めると、
「当然でしょ。俺は智也のことが大好きなんだから」
臆面もなく言うものだから参ってしまう。しかし、それが嬉しくて堪らなくなる自分もいて――智也はふっと口元を緩めると、絡まる指先に力を込めた。
「ハルは俺のものなんだ、って知らしめるのも悪くねーな」
そう言って、手を繋ぎながら歩きだす。
一年後、五年後、十年後……何十年経っても、こうして一緒に歩んでいけたらいい。
これからどう生きていくのかなんて、今の自分には到底想像もつかない。けれど、きっと二人なら何だって乗り越えられるはずだ。
陽翔がいるというだけで、この一歩一歩がキラキラと輝いているように思えるのだから――。
(っとに、眩しいヤツ……)
智也は隣を歩く恋人の横顔を見つめ、そっと目を細めたのだった。
fin.
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