52 / 54
番外編 愛あるキズアト(2)
商業施設を後にして帰宅するなり、智也は陽翔を部屋へと招き入れた。
「ええっ、俺が!?」
ベッドの縁に腰かけ、智也は先ほど頭に浮かんだことを話していたのだが、思いのほか驚かれてしまった。
というのも、陽翔にピアスホールを開けてほしいと頼んだのだ。せっかくだから新しくホールを作ってしまおうと思い立ち、ならばプレゼントついでに――といった具合だ。
「よくね? ハルにホール開けてもらうの。これもプレゼントの一つだと思ってさ」
言いつつ、自分で消毒とマーキングを済ませてしまう。その一方、陽翔はピアッサーのパッケージを手に困惑しているようだった。
「こういうの、学校でたまにやってる人いるけどさあ……他人がやっていいものなの?」
「はあ? そんなん別にどうでもいいだろ」
「えええ~……」
ピアッシングは医療行為のため、医師以外が第三者に処置することは法令により云々――といった文章が取扱説明書にはあるのだが、ここで口にするのは野暮というものだろう。
「ほら、早くパッケージ開けろよ。あとはもう押し込むだけだから」
「は、はいっ」
陽翔は慌ててパッケージから本体を取り出す。
とはいえ、なかなか踏ん切りがつかないようだった。智也は痺れを切らしたようにその手を掴む。
「――ここ。マークに合わせて耳と垂直になるようにな」
位置を教えてやると、陽翔が小さく息を呑む気配がした。
「すごく緊張するんですけど……」
「なんでお前が緊張してんだよ。いいから一思いにやれよ」
「ううっ……」
陽翔はいよいよ覚悟を決めたようで、「じゃあ、いくよ?」とピアッサーを握り直す。
一呼吸置いてパチンッという乾いた音と、軽い痛みが走った。
「いいい痛くなかった!?」
「全然? おー上手い上手い、ちゃんと真っ直ぐじゃん」
スタッドカプセルを取り外し、鏡で確認してみたけれど、キャッチもきちんと装着されているし特に問題はない。むしろ、狙いどおり綺麗に貫通していて感心するほどだ。
「一生もんの傷、残しちまったな?」
イタズラっぽく笑ってみせると、陽翔は呆けたような表情になったのち頬を赤らめた。
「智也って、ときどきすごいこと言うよね」
「いや、本当のことだろ? せっかくハルに開けてもらったんだから、ちゃんとケアして塞がんないようにするし――ホール完成したら、今日のピアス付けるからな?」
「……もう、そういうとこズルいんだから」
陽翔は照れた様子で呟き、そっと智也の頬に触れてくる。
このあと、何だかんだでそういった雰囲気になってしまったのは言うまでもない。
ともだちにシェアしよう!