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番外編 愛あるキズアト(1)
『智也、誕生日おめでとう!』
十一月某日。日付が変わった瞬間、陽翔からそんなメッセージが届いた。
毎年のことながらマメな男である。その日はちょうど半日授業だったため、放課後は陽翔と一緒に過ごすことになった。
向かった先は大型商業施設。フードコートで昼食をとったあと、館内をぶらついて気になった店舗があれば入ってみたり――などと、やっていることはいつもと変わらない。誕生日とはいえ、高校生の財布事情なんて高が知れているし、付き合いが長いとこんなものだ。
しかし、今日の陽翔はやたらと張り切っているようで、何かと足を止めては智也に声をかけてくるのだった。
「ねえ、ああいうのはどう?」
陽翔がまたもや店先で立ち止まる。
そこはアクセサリー類を扱っている店で、シルバーのリングやピアスのほかに、時計やベルトといったものが並んでいた。確かに関心はある。
(そういや最近、何も買ってなかったな)
智也の耳には三つほどピアスホールが開いている。高校でも――生徒の自主性を重んじる自由な校風のため――日常的にピアスを身につけているのだが、思えばここしばらくは何ら変わり映えがない。
「いいかもな。新しいピアスとか欲しい気ィする」
「ほんと? よかったあ!」
「よかった?」
「あーその……プレゼントにアクセサリー贈るのって、恋人らしいかなって」
照れた様子で頬を掻きながら陽翔が言い、つられて智也も顔が熱くなった。恋人としての自覚はあるのだが、不意打ちでこういったことを言われると弱い。
「とりあえずお店入ろっか?」
「だ、だな」
ぎこちなく相槌を打って店内に入る。
ピアスが陳列されているエリアに辿り着くと、陽翔は真剣な表情で商品を眺め始めた。
「智也はどういうのがいいの?」
「んー、何でもいい」
「『何でもいい』は一番困るヤツだよ……ほら、好みだってあるでしょ?」
「そうじゃなくって。ハルが選んでくれるなら何でもいい、つってんだよ」
ついぶっきらぼうな言い方になってしまったけれど、陽翔には伝わったらしく、嬉しそうに表情を和らげた。そして棚に目を戻し、じっくり商品を吟味していく。
「これとか似合うんじゃない?」
しばらく考え込んだのち、やがて一つのピアスを手に取ってこちらへと宛がってくる。
それは小ぶりのベーシックなスタッドピアスだった。ラウンドカットされたオニキスがあしらわれたデザインで、ちょうど智也の好みにも合っていた。
「俺的には似合ってると思うんだけど、本人としてはどう思う?」
「いいんじゃね? アクセントにぴったりじゃん」
素直に感想を述べれば、ホッとしたように陽翔が笑みを浮かべる。
「じゃあこれ、誕生日プレゼントとして贈っていい?」
「お、おう」
ふわりとした王子様スマイル。こんなもの見せられたら、世の女はイチコロだろう。現に、通りすがりの女子高生が振り返ってはきゃあきゃあと騒いでいる。
(そんな野郎が好きな相手ってのが、俺なんだもんなあ……)
周囲からどう思われているのか知らないが、付き合っているという実感にこそばゆい気持ちでいっぱいになってしまう。
それから会計を済ませ、ラッピングしてもらうまであっという間だった。
「はい、智也。改めて誕生日おめでとう」
「ああ、サンキュな。大事にするわ」
差し出された包みを受け取り、智也は礼を言う。
早速包装を解いて身につけたくなったけれど、ふと思いついたことがあって陽翔の顔を見上げた。
「……あのよ、これからウチ来る?」
「えっ!」
陽翔が頬を赤く染める。いや、期待されても困るのだが。
「言っておくけど、別にエロいことしようってんじゃねーからな」
勘違いされないように先手を打つと、陽翔は少しだけ残念そうな顔をしてみせた。爽やかな王子様だと思ったらこれだ、なにかと忙しい男である。
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