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1-1-出会い
甘やかな春風が頬の上を吹き抜けていく。
屋上庭園の隅のベンチに座った久世鳴海 は、そっと目を閉じた。
四季折々に咲く花や低木などの緑に彩られた憩いの場。フェンスにぐるりと囲われ、十分な広さがあるスペースでは制服を着た男女がお喋りに夢中になっていた。
そこは幼稚園から大学院まで擁する一貫校・凛聖 学園の敷地内だった。
広々としたキャンパスには高等部までの学び舎が併設されている。
自由な校風、伸び伸びと勉強に打ち込める学習環境、多様性を重んじて取り揃えられた制服が評判のいい私立学校であり、自然豊かで様々な施設が充実したベッドタウンに居を構えていた。
この四月、鳴海は公立の中学から凛聖の高等部へ進学してきた。
身長百六十九センチで均整のとれた体つき、制服はサイズにゆとりがあり、エンブレム付きのネイビーのセーターは腕捲りされている。シャツは第一ボタンまで留め、ネクタイもきちんと締めていた。
手つかずの黒髪に滑らかな肌。凛と整った顔立ち。中性的な外見で、ぱっと見にはボーイッシュな少女にも見える。
特別教室棟の屋上庭園で、一人でベンチに座り、本を読むでも携帯を触るでもない。三十分近くぼんやりと虚空を眺めていた。
「面白くないんですよね」
スペースの中央に背中を向ける格好で西日を一身に浴びていた鳴海は、ふと切れ長な目を瞬かせる。
「他所から入り込んできた外部生の分際で? 学園トップの格上アルファだとか騒ぎ立てられて」
いつの間にか背後の雰囲気がガラリと変化していた。放課後の和やかなお喋りは途絶え、辺りを満たすのは張り詰めた空気だった。
「ずっと目障りだったと言いますか」
鳴海が座るベンチは真正面にフェンス、真後ろに植え込みが設けられていて、人目につきづらい場所だった。
上体を捻り、生育旺盛な植栽越しに背後を窺った新入生は、眉根を寄せる。
「そんな格上アルファの先輩が一身上の都合で留年して、本年度から後輩だった僕達と同じ学年になるなんて、意外や意外でした」
八人の男子生徒が一人の生徒を取り囲んでいた。
囲んでいる方は制服を割と正しく着用し、清潔感ある身だしなみで、逆に囲まれている方は何とも目立つ身なりをしていた。
(月と同じ色だ)
プラチナブロンドという特徴的な髪色がとにかく目を引く。
第一ボタンが外されたダークグレーのシャツ。同色のネクタイは緩みがちで、グレンチェック柄のズボンを履いた足は矢鱈と長く見えた。
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