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第1話

   今日も今日とて結界をはる  それが僕のライフワーク 「んんー!」  チチッと小鳥の鳴き声がして僕はベッドの中で大きく伸びをする。  体を起こしながら王宮をぐるりと囲む王都までの結界の綻びがないかチェックして、それで今日のお仕事は終わり。  とても簡単だけれど終わり。  他にやる事ないけれど終わり。  生活魔法に頼らず身支度を整えて、少しガタつくテーブルセットで朝食を待つ。  9時の鐘がなるまで待っていたけれど朝食は来なかった。 「おなかすいたな。」  昨日の夜も来なかったから今朝は来ると思ったのに。  そしてご飯が来てない時に限って僕の唯一のお友達は来てしまうのだ。 「キリ、今日はご飯来てないよ。」  愛嬌のある顔で鼻をふんふんとさせながら近づいてくるこの子は大きなネズミ。  不潔なドブネズミだと、ずいぶん前に教えてもらった。  僕の住んでいる日当たりが悪くて古ーい搭は穴だらけ。  こうしてたまに食べ物をねだりに来るのが可愛くて名前までつけて勝手に友達になったのだ。  少し前からご飯があまり届かなくなった。  そりゃ前から一食抜かれることなんて珍しくなかったけど、こうも頻繁じゃなかったし、二食続けて抜かれることはなかった。 「戦争、始まったのかなぁ。」  呟いてみたって誰からも返事はないのはわかっているけどつい声に出してしまうのだ。  ご飯がもらえない事にまだ気が付かないお馬鹿なキリは彼の頭をこしょこしょと掻く僕の人差し指の匂いをふすふすと一生懸命嗅いでたけれどやがて諦めて小さな抜け穴へ戻って行く。 「キリまた来てね」  僕の言葉に振り向いてくれないキリから少々悪意を感じたが振り向く方が稀なのだ。 「さっみしーなー、タカギに会いたい。」  つい2.3年前まで毎日のように会っていた僕の教育係兼、父親兼、兄兼、幼なじみは和平の為にという大義名分のもと異国へお嫁にいってしまった。  それまで僕の世界はこの搭の部屋とタカギだけだった。  タカギとの出会いは僕が五つくらいの時。  王宮の前で野垂れ死にそうになっていた僕は他に類を見ない魔力量を見初められ保護という名の監禁状態からの洗脳されている状態。  そこへ教育係としてこの搭へやってきたのが落ちてきて10年目のタカギだった。  異世界から落ちて来たらしいタカギはこの国じゃあ実年齢より大分若く見えるそうだけど、僕はタカギ以外とほとんど話したことがないからわからない。  でも確かにクリクリとした目やシミやシワのないつるりとした肌は彼を幼くみせていただろう。  タカギは異世界での記憶があり、洗脳されていなかった。  そして洗脳されているフリをしていた。  まぁ洗脳といっても、タカギ曰く幼子がする自国の自慢話のようなもの信じるやついるか!との事らしい。  でも三つの時からその自慢話を当たり前のように聞かされていた僕はその話をまるっと信じていた。  隣の獣人の国は野蛮で人を奴隷のように扱っているだとか、  獣のように人を狩って生のまま齧るだとか。  子供だった僕は本当に怖くて攻めてきたらどうしよう、食べられたらどうしようって怯えていて言われるがまま結界術を習い、少しずつ結界をはれる範囲をのばして王都までぐるっとはれるようになるまで時間はかからなかった。  その頃タカギに出会って色々と常識は覆されたわけだけれど、最初はタカギの方を疑ったし信じられるまで時間はかかった。  でもいつの間にか信じちゃってたんだよなぁ、としみじみと考える。  魔法の才能があった僕は割とオールマイティーに魔術が使えるわけだけど、結界だけってことにしとけと言うタカギの助言を聞いて王都までの結界が限界という事にしてる。  タカギが来るまでの教育係には毎日のように 「貴方が結界をはれないところでは毎日のように人が命を落としている」=「貴方のせいで人が死んでいる」と言われ続けていた。  タカギを信じたのは王都の外側で人が獣人に狩られたという話は聞かないと教えられたのが「お前は何も悪くない」と言って貰えたように感じたからかもしれない。  異世界からの落ち人であるタカギは最初こそ持て囃され神子として祀られてたようだけど、この国の為に力を使おうとはしなかった。  それはこの国が愚かで見栄っ張りで、民の事を考えずに私利私欲に走っていたからだという。  タカギは力を見せず何も出来ない神子として、僕の教育係になったけれど力のない神子に用はないとその頃はまだかろうじて交易のあった隣国である獣人の国へ友好の証として差し出された。  当の本人は「獣人が悪役な話なんて読んだことないから大丈夫っしょ!」と元の世界での本の話なんてする始末。 「あっちの国で運命の番なんてもんに出会ってムフフしてくるなぁ。」  と、王宮の安全を守っている僕の事をわざわざ害する理由はないだろうと笑顔で出国していった。  いつもにこにこと笑顔なタカギが別れのあいさつの時だけ真面目な顔して「落ち着いたら迎えに来るな」と言ってくれた声が頭から離れない  またバカな話してゲラゲラ笑い合いたい。  僕の大切な友達。  タカギがいなくなってから僕はずっと淋しいよ。  夜になってまたテーブルについて待っていると今度はちゃんと食事が届いた。  いつものパンと具沢山のスープ。  用がある時しか言葉を発さないメイドさんが食事をおきながら淡々と話し出す。 「このまま結界を広げる努力をしないのなら食事は日に一度程にするそうです。」  タカギがいなくなってから僕は話さなくなった。  つい先日も偉い人と魔術師が来てしきりに攻撃魔法を覚えさせようとしていたけれど無言を貫いた。  それが出来なければ結界をより強固に、広域に、そう言われたけれど何を言われてもうんともすんとも言わない僕にかなり苛ついていたようだから食事が貰えないのはそのせいか。  これは結界はるのやめたら直ぐに始末されそうだなぁ。  小さくため息をついて久しぶりの食事をとる。  うん、いつも通り美味しい。  お腹はペコペコになるけど一日一食でも大丈夫だな。  元からそんなに動かないからエネルギー消費しないし。  でもこの国の民たちはごはん食べれてるのだろうか。  僕のせいで戦争に巻き込まれて殺されてるのだろうか。  考えてもわからない、どうしたらいいかもわからない。 「…これまで上辺だけは友好な関係を築いていた隣国がいよいよ動き出しました。王都より内側には貴方の結界がはってありますから武力を行使しても民たちの命しか奪えません。隣国がしているのは経済制裁です。」 「え?」 「今まではタカギ様を差し出した代わりに物資などの支援をしてくださっていましたがそれがなくなりました。そして結界外の外側から徐々に吸収されていっています。それも歯向かわない民たちへは武力は極力使わず平和的に。支援も受けられていますので大丈夫です。」 「え、あ、教えてくれてありがとう」  得た情報よりも、口を開くのは用事がある時だけ一方的になメイドさんがこんなに長文を話している事に吃驚してしまう。 「問題なのは結界内です。王都は避難してきた貴族や平民で一杯です。物資や食料も足りず、しかし自国の民がこれ以上隣国へ流れるのを食い止めたいが為に貴方に出入り不可能な強固な結界をはってもらいたいのでしょう。」  確かに今はっている結界は王国民以外の侵入や攻撃は防ぐけど中から外へ出るのはとても簡単だ。  出入りが出来ないと外へも逃げられないし戻っても来れなくなる。  今は良いけど近い将来内側で暴動が起きるだろう。  民がいなければ食料の確保すらも危ういのだ。  自分が何をしたらいいのか、それがわからない。  何もしなくてもいいかなぁ・・・  もうこのままごはん貰えなくて死んじゃうのも良いかもしれない。  お腹はとても空いてた筈なのに手が止まってしまう。 「貴方は只でさえ細身なのですから食事はしっかりと取ってください。日に一食では生命を維持するだけで余分はありませんよ。」  でもごはんの為に国にとって有益なことをするのは嫌だ。

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