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第3話

踏みしめる草がくすぐったくて、土がしっとりひんやりしていて、思わず「おおっ」と声に出てしまう。 久しぶりの感覚に足がムズムズする。走ってもみたいけど、長めの草に足をとられそうで一歩一歩踏みしめるように歩く。 名前はわからないけど小指の先ほどの薄い青の小花が群生している場所まで向かい、腰を下ろして花を摘んだ。 雑草だろうか。小さくて可愛いその花をキリの上に乗せていく。 体が見えないくらい敷き詰めるとキリの顔と小花の可憐さがあまりにミスマッチで、自分の口角が僅かに上がるのがわかる。 ひょろりと伸びた黄色い花も見つけて顔の近くに置いた。うーん。キリならパンくずに囲まれてた方が喜ぶかもなぁ。食いしん坊だったし。そんな事を考えながら近くの木の下まで行ってキリを埋める穴を掘る。太い枝は見つからないし、細い枝はすぐに折れてしまう。 素手で掘ろうとしても土が固くてなかなかキリが入っている箱程の大きさにはならない。 何か道具を探して来ようかと顔を上げると目の前に漆黒の艶々とした毛皮の狼がいた。 あまりに至近距離で見つめられたものだから吃驚してしまって、後ろに尻餅をついてしまう。大きい。大きくて、怖くて、思わず後ずさる。そうすると狼も少し後ろへ下がり、ちょっぴり悲しそうな顔をするものだから申し訳ないような気がして、土で汚れた右手を服で適当に拭って差し出した。 目線を合わせたままゆっくりと差し出した手まで近づいた狼は僕の指先を大きな舌でぺろりと舐めると、体に似つかわず小さな声で一度「クゥン」と鳴いた。 その寂しげな声に、思わずキリにしていたように指で鼻先をこしょこしょと掻くと指先にすり寄り、「クゥン、クゥン」と止まらなくなってしまう。 その切なげな声にもしかしてと思い、言葉が通じないとは思いながらもつい話しかける。 「狼さんはもしかして毎晩僕の結界を破ろうとしていた狼さん?」 すると狼は鳴くのをやめて手のひら全体に顔を押し付けて満足そうに僕の匂いを嗅ぐ。 「そっかぁ。痛かったよね。ごめんなさい。あと、昨日急にこの国の偉い人たち転移で飛ばしてごめんね、ごはんにしたかな?」 おずおずと近づくと、それに気づいた狼さんはぴたりと固まって動かないでいてくれる。 見た目は怪我してないけれど、首から胴にかけてなるべく優しく美しい毛並みをときながら傷がないか調べる。 「怪我はしてないみたいだね?良かった。一応治癒かけておくね。」 声をかけてからそっと治癒をかけると嬉しそうにしながらすり寄ってきてくれる。 艶々の毛並みがとても気持ち良くて暫くされるがままになっていたけれど、狼さんは僕の掘っていた穴を見ると太い前足を使ってすぐに掘ってくれた。 狼さんにお礼を言うと少し離れる。立ち去る様子はないようで此方を見ながら座っている。 「キリ、昨日は痛かったよね。ごめんね…ありがとう。」 箱の蓋を閉めて穴の中に置く。土を被せながら涙がでた。 タカギがいなくなって、唯一の話しかける相手だったキリ。 キリが来るのをいつも待ってた。ありがとう。だいすき。 口を開くとおんおん泣いてしまいそうだったから心の中でありがとうを繰り返した。 キリと最後とお別れをして、さて、と立ち上がる。 狼さんに穴を掘ってくれたお礼をして、ばいばいと手を振ると着いてきてまたクゥンとひと鳴き。 「狼さん、僕の結界を破ってまで会いたかった狼とかがいるんじゃないの?」 あんなにさみしそうに鳴いていたんだ、恋人かな。 塔の扉のすぐ近くの井戸で手を洗ってついでに体の汚れも落としてしまおうと服を脱ごうとボタンを外しだすと「ウォフッ」と吠えながら体を押しやって来る。 「僕体も洗いたいよ。」 そう言っても知らん振りでぐいぐいと塔へと入れられてしまう。 そのまま階段も着いてきて、僕の部屋に着くと満足気に僕の匂いをふんふんと嗅いでいる。 体が大きくて力強いから僕の体もつられて動くけど、もう怖くない。 あまりに匂いを嗅ぐものだからお腹が空いているのかもしれない。 「狼さん、昨日飛んで来た人食べた?」 そう言うと動きを止め、とても嫌そうな顔をされた。狼は肉食動物だったと思ったけど違うのかな? 「お腹すいたの?」 またふんふんと匂いを嗅ぎ始めた狼さんに問うけどお腹が空いていてもここには何も食べ物がないし、王逹は昨日飛ばしてしまったからもう食事は届かないだろう。 「ねぇ狼さん、僕はもう死んでもいいやって思ってたんだ。だからさぁ・・・僕の事食べてもいいよ?」 食事は届かないし食べ物を探しに行っても捕まるか王を害したとして殺されるだろう。だったらこの大きくて優しくてさみしがりの狼さんに食べて貰った方が良い。 そう言うと狼さんはぴたりと動きを止めて疑いの目を向ける。 「やせっぽちで美味しくないかもしれないけど、腹の足しにはなると思う。」 本音を言えば、何かもう疲れちゃって早くキリのところに行きたい。 狼さんは怒ったように吠えると僕を床へ押し倒す。 僕の体を跨ぐように立たれるとその大きさにちょっぴり恐怖心が湧くけれどこの狼さんの血肉になれるならいいかと不思議と思えて目を閉じた。 喉元あたりを噛み千切られると構えていたけど衝撃はなかなか来なくて、そっと目を開けると「クゥン」と何度目かのさみしそうな声。 どうしたの?と首元を強めにがしがしと撫でると狼さんの顔が僕の首に近づいた。 再度目を瞑るが痛みに襲われることはなくペロペロと僕の首すじを舐める狼さん。 首元を執拗に舐められて、先ほど脱ぎかけたシャツを簡単に噛みちぎると「フンッ」と鼻息を鳴らして此方を見下ろす。 食べる気がないことにようやく気づき、肘をついて起き上がろうとするが狼さんの前足で肩を軽く押されて動きを止められる。 首から下へどんどん舌が降りていきくすぐったくてクスクスと笑ってしまう。 脇腹やへそ周りを舐められたときは笑いすぎて呼吸が整わずぐったりとしてしまった。 「もうおしまいっ。本当にくすぐったいよ。」 食べたくないのにごめんね?と力の入らない手で僕を見下ろす狼さんの体を押しやるがびくともしない。 今度は胸全体を舐め思わず体を捩ると胸の頂だけをペロペロと舐め、固くなってくるとその大きくて分厚い舌を絡ませるようにしてくるのだ。 「狼さんそんなに大きいんだから赤ちゃんじゃないでしょう?おっぱい舐めても何も出ないからやめてよ。」 この狼さんは実はまだ乳が必要なのだろうか。確かに甘えん坊っぽいけどさすがにこの大きさじゃ成体だろう。 言葉が通じていそうな狼さんに強めに言おうとした時に牙がしつこく舐められて敏感になった頂に触れた。 「ッあ、」小さくではあるが声が洩れてしまうと狼さんの目がキラリと光った気がした。 「んやっ、ひゃッ、んンッ」 舐められ過ぎて敏感になってしまった僕は、胸はもちろん脇や耳を舐められても声が洩れてしまう。 息も絶え絶えになりながら狼さんを見上げればその瞳はギラギラとしていて、いよいよ食べてくれるのか、もう解放してくれと期待した目を向けてしまう。狼さんは心得た、とばかりに「ウォフッ」と頷き、何故か僕のズボンを爪を使って切り裂いた。

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