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第6話

  「じゃあ、僕からね?んーと。クレイグは何歳ですか?」  隣り合って座ってるけど、クレイグは体を此方に向けてくれているので僕も少しクレイグの方に体ごと傾けて話す。 「31歳だな。スミレはいくつだ?」  貫禄あるからもっと年上だと思った。髭生えてるし。そう言うとわざと髭を僕のほっぺたにつけてショリショリとしてくる。やめてと手でクレイグの頬をパシパシと押しやるがガッチリとホールドされてショリショリショリショリ押し付けてくるのでケラケラと笑ってしまう。 「ふぁ。もう、笑い疲れた。おなかが痛い。」  ふふふ、と笑いが収まらずに漏れるとクレイグも僅かに口角を上げながら問う。 「それで、スミレはいくつなんだ?」 「僕、今何歳だろう。最後にタカギにお祝いしてもらったのが16歳だったから…19歳くらいかな?」 「…15か16にしか見えないな。」 「うーん。そもそも保護された時に、見た目から3つくらいだろうって適当に決められたからなぁ。正確な年齢はわからないの。」  タカギに言われてなるべく動くようにしてたけど塔の中じゃ運動も出来なかったし、成長期に栄養バランスの取れた食事も出来なかったしなぁ。うん、仕方がない。 「生まれた日も…わからないか。」 「ん。タカギと初めて会った日を誕生日ってことにしてお祝いしてくれてた。」  撫で撫でと頭を撫でてくれてるつもりなんだろう。頭が前後に大きく揺れる。 「力加減が難しいな。」 「髪の毛ぐちゃぐちゃになっちゃう~」  くちゃっと絡まるのはこのスミレ色の細い髪のせい。  細くて柔らかい赤ちゃんみたいな髪はタカギがいなくなってから伸ばしっぱなしのぐちゃぐちゃだ。あれ、僕タカギがいないとダメダメなんだな、と今更気付く。髪を結ってもらったのも久しぶりだったしなぁ。  解れた後れ毛を丁寧に撫で付けながら他に質問はないのか問われる。 「あるよ!ごしょくぎょうは何ですか?」 「ふふ。ご職業な。随分カタコトだが意味はわかるのか?」  む。わかるよ! 「お仕事の事でしょう?クレイグのお仕事は何ですか?」  体大きいしムキムキだから、体を使うお仕事だろうか。 「分かりやすく言うと、国の統治だ。」 「とうち?」 「国をまとめ、民を守る。象徴でもあるか?あとは庭を散歩したり市井を散策したり、外交に出たりもするな。」  何だかそれって… 「王さまみたいだね?」 「王様だからな。」 「、え」  クレイグ王さまなの? 「王と言えば聞こえは良いが、ただの国の代表だ。この国は八年毎に王を決める。俺は腕っぷしが強かったから選ばれただけなんだ。タカギには脳筋王と呼ばれてるしな。」  くつくつと笑いながら話すクレイグとは逆に僕は表情を失くしていく。  手のひらに感じた熱にハッと我にかえると穏やかな瞳と目があった。 「スミレ。どうした?」 「僕は、結界をはってた。」 「あぁ。そうだな。」 「僕は、クレイグの、敵だ。」  死んでも良い、そう思っていた。楽になりたいと思っていた。  でもほんの少し前にタカギと再会して、クレイグとお話して楽しくて、欲が出た。このままここにいたいと。 「お前の国は降伏し、我が国は勝利宣言を出した。」  そりゃそうだろう。王をクレイグに飛ばしたのは僕だ。 「もう結界は張らなくて良い。今まで一人で頑張ったな。」  涙が出ないように唇を噛み締めて耐えるけどじわじわと涙が滲み出てしまう。 「唇を噛むな。傷になる。」  クレイグの指が唇に乗り、グッと指を押し込む。一度口を開けば力が抜けてボタボタと涙が溢れる。 「ぼ、ぼくはクレイグの敵で、ずっと結界を張ってて、捨て子で、生きる価値なんてない。だから、だから死んでも良いんだ。」 「ずっと意思とは関係無くやらされていたんだ。スミレは悪くない。」 「、でも」 「スミレ、もう良いんだ。自由に生きて良い。好きな事をしよう。」 「好きなことなんてわからない。ぼくにはなにもない。」  タカギと、ネズミのキリと、パンとスープ。食事を運ぶメイドさん。僕にはそれが全てで、それしかわからない。 「これから探していけば良い。出来ればスミレの好きなものを一緒に探したい。共にありたいのだ。」  そこからはもう、クレイグの胸に顔を埋めてえぐえぐと泣きはらす事しか出来なくて、暫くして泣き疲れてくったりとしていると優しい声が降ってくる。 「あと三年は王としての務めがある。その間に此処で好きな事や嫌いな事を探そう。後に王でなくなっても一緒にいてくれるか?」 「クレイグは何でそんなに優しくしてくれるの?僕、何も返せない…」  そう言うとクレイグは少しだけ眉を下げる。 「優しいと思うか?スミレはこれから沢山のモノや人に出会う。嬉しいことだが少し恐ろしい。だから約束が欲しいのだ。」 「?、何が怖いの?」  王様なんだから怖い事なんて何もなさそうなのに。 「スミレの心が他に向くことが怖い。やっと出会えた番なんだ。誰にも渡せない。」  狭量な男だと、そう言ってキツく抱き締めるクレイグは格好いい男の人じゃなくて、クゥンと鳴いてた狼さんみたいで無意識に抱き締め返していた。 「僕はクレイグのつがいなの?つがいって結婚して交尾するんでしょう?僕とクレイグも結婚して交尾するの?」 「…なんだそれは。」 「タカギが教育係の時のお勉強で言ってたよ?」  ハァッと大きなため息が頭にかかる。 「タカギとライオネルも番だぞ。」 「おぉ!だから結婚して、交尾して、赤ちゃん出来たんだね!すごい!」 「番の本能で愛し合うのももちろんあるが、番だからと言うだけではなく、惹かれ合って、愛し合って番になるんだ。」 「僕とクレイグも愛し合うの?」 「俺はスミレが好きで愛しているぞ。ずっとお前の存在を胸の中に感じていたのだ。会ってからもっと欲しくなった。だからと言ってスミレも今すぐ愛せなどとは言わない。人には番はわかりにくいだろう。だがお前からも愛して貰えるように全力で行くからそのつもりでいてくれ。」  思わぬ愛の告白に顔が熱くなってしまう。 「ん。わかった。」  本当にわかってるのか?とその瞳が語る。 「えっとね、愛とか実は良くわからない。でもタカギからは貰っていたのかな?タカギが僕に向ける愛情と、クレイグが僕に向ける愛情が違うのは、何となくわかったよ。それに、嬉しかった。こうやってぴったりくっついているのが安心するのはつがいだから?」 「安心するのか?」 「ん。こうやって心臓の音を聞いてると凄く落ち着く。それにあんなに大きな狼さん、凄く怖い筈なのにすぐに慣れたし、体中ぺろぺろされても怖いより気持ちいいが強かったよ?」  あ、またクレイグの喉がぐうってなってる。 「色んなことを知りたい。もちろん、クレイグの事も。」  そう言えば優しく笑うから、胸がふわふわしてしまう。 「そろそろ夕食だな?好きな料理があると良いが。」 「パンとスープが好き。」 「それならありそうだな。」  それから程無くして、疲れた顔のタカギとライオネルさんが部屋に戻ってきて食事が運ばれてくるまで抱っこされた状態で自己紹介は続いた。

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