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第8話
結局スープを飲んだらお腹がぽっこり膨らんで、これ以上食べられそうもなくてごちそうさまをした。
ぷりぷり怒っているタカギだったけど、魚が美味しかったと伝えたら頭を撫でてくれて、明日は庭で走ってみようって言ってくれた。
ライオネルさんはずっと笑っていたけれど、タカギが落ち着いたら優しい瞳でタカギを見ていて、僕まで嬉しくなってにこにこ見ていたら「ライオネルさんだと長いからライで良いよ。」って言ってくれて更に嬉しくなった。あだ名って初めてだ。
クレイグと席を立ったら体の大きな熊の獣人の料理長さんが「お腹が空いたら食べてくださいね。」って果物を包んでくれて、果物を食べるのが初めてだと伝えたら「美味しいもの沢山作りますね!」って。
なんだかもう、何も言えなくて。
暖かくて優しい空間に立っていられなくなって、しゃがみ込んで下を向く僕を直ぐに抱き抱えてくれる人肌に安心して縋り付いた。
背の高いクレイグに抱えられてるから、下から窺うように覗き込むタカギにありがとうを伝えた。
クレイグにもライさんにも料理長さんにもメイドさんにも。
それで「久しぶりに沢山ごはん食べて、おしゃべりしたからお口が疲れた。」って言ったら「風呂入って寝ろ!」ってでこぴんされた。
「ふろ?」
みんながまたポカンとする。
「風呂、知ってるよな?お風呂。」
タカギが焦って問いかける。
「おふろ!知ってる!お湯に浸かる!」
「…タカギ。」
「いや、毎日清潔だったから気にもとめてなかった。言い訳だけど、俺が教えるのは勉強メインだったから…ごめん。お風呂入ってなかった?あの塔、風呂場あったよね?」
「?、なんでタカギが謝るの?おふろ、あったけど使えなくて。小さいときは塔を出てすぐの井戸で丸洗いしてくれて、そのうちお水を桶に入れて持ってきてくれるようになって、クリーン出来るようになったよ!って言ったらなくなったの。毎日してたからちゃんと綺麗だよ?」
「丸洗いって…」
タカギが悲しそうな顔をしてる。おろおろとしているとクレイグから声がかかる。
「今日から魔法使わないで入ろうな。」
頷いて了承すると、それにハッとした顔をしたのはタカギで。
「俺がスミレと一緒に入る。クレイグじゃ大変だろうから。」
「それを俺やライオネルが許すと思うか?」
チラリとライさんを見て、直ぐにクレイグに向き直る。
「顔こわ。でも…大丈夫?主に下半身。」
「大丈夫だ。嫌がる事はしない。」
そう言って頷きゆっくりと歩き出すクレイグにタカギが少し声を張り上げる。
「嫌がる事をしないってのと嫌がらなければしても良いってのは違うからな!」
話の意味はわからなかったけど、クレイグが僕をお風呂に入れるのが大変なのは理解出来たから、ちょっぴり怒り気味のタカギへ僕も大きい声を出す。
「僕もクレイグの下半身?気をつけて見とくから心配しないで!」
大丈夫だよ!と伝えたかっただけなのに返ってきた言葉は「ばか!」の一言。
意地悪な言葉だとムッとすると、ライさんも笑顔で口を開く。
「スミレ君、クレイグの下半身の一部が大きくなったら小さくしてあげてね!よろしくね!」
よろしくと言われたのが嬉しくて「はいっ。」と返事するのとタカギがまたライさんの頭をスパンっと叩いたのは同時だった。
噴き出しているライさんと怒っているタカギに手を振り、クレイグに両手でしっかりと抱きついた。
「タカギ怒ってたねぇ。」
「怒ってたな。」
クレイグは僕を抱いているのにぐらつくことなく長い廊下を歩く。
「タカギも最近はずっと塞ぎ混んでたからな、久しぶりに楽しそうでライオネルも安堵していた。」
スミレのおかげだ、と鼻先にキス。
「僕は何にもしてないよ。」
「ここに居てくれてるだけで良い。俺はスミレがいるだけで幸福感を得られるし、タカギが楽しそうだとライオネルも喜ぶ。ライオネルがあれほど声を出して笑うなんて久しぶりだった。」
瞼や眉間へチュッ、チュッと小さなリップ音と共にキスを贈られてじわりじわりと胸に暖かい気持ちが溢れる。
いつの間にか先ほどまで居たクレイグの部屋の前まで来たのでお礼に頬に軽く吸い付くと身を捩ってクレイグの腕から抜け出し、小走りで部屋の中へ入った。
「おふろ?」
扉から顔を出して覗いて、クレイグを振り返る。
「風呂だ。」
あの塔にあったお風呂はこんなに広くなかったような…
「獣人は基本でかいし、ここは王宮だぞ?」
何で言いたいことがわかったのか問うと顔に出ていると頬を摘ままれる。
「ほら、服を脱ぐぞ。」
「はぁい。」
ポイポイと服を脱ぎながらクレイグを見上げると彼も此方をみていた。
「なぁに?」
最後の下着に手をかけながら問えば困ったように眉を下げる。
その顔は寂しげな狼さんのようでつい笑みが溢れる。
「タカギに羞恥心を覚えろと言われただろう?恥ずかしくはないか?」
「んー、だってクレイグだもん。見られても困らないよ。」
そう答えるとあからさまに肩を落とす。
「まぁいい。これから覚悟しておけ。」
そう言ってシャツを脱いだクレイグのお腹に吃驚した。
「これどうなってるの?触って良い?」
縦横の線が付いていてぽこぽこと凹凸のあるお腹。僕の薄っぺらくてへこんでいるお腹とは大違い。
頷いて了承してくれたからそっと触ると思ったよりも固い。
そろそろと触っている間に衣服を全て脱いだクレイグを眺めて固まった。
お腹だけじゃない。腕も足も首でさえも僕より太くて大きくて。あぁ、格好いい人。素直にそう思った。
上から下まで不躾にジロジロと眺めてしまって、僕のものとはまるで違うおちんちんが目に入ってきて直ぐに目を逸らす。
直視できない。
「っひゃ!」
クレイグがそっと近づいて僕のおでこにキスをする。
「どうした?入る前に逆上せたか?」
「うぅ。狼さんになってくれる?」
目のやり場に困るのだ。
「獣化したら洗ってやれないだろう?」
「だって、何だかクレイグの事見れない。どこ見ればいいのかわからない。顔が熱い。」
どうすれば良い?
見上げて問えばあまりにも優しく笑うから胸がぎゅぎゅっと締め付けられる。
「それは反則~。」
「羞恥心、覚えたな。自分の事はからっきしだけど。」
顔が熱くて頭が沸騰しそうで胸がぎゅっとする。
じっとしていられなくて今すぐ蹲りたい。
恥ずかしい。見かねたクレイグが自身の腰にタオルを巻き付けてくれたからやっと顔を見ることが出来た。
くふふ、と洩れ出る笑みを噛み締めて手を繋いで浴場へ足を踏み入れた。
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