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クレイグ視点 5

   スミレやタカギのいないところで侍女三人と話す機会を作り、昨日のスミレの様子を話す。 「それは、赤ちゃん返りのようなものではないでしょうか…母が妊娠すると、上の子は不安に駆られたり、落ち着かなくなったりするものです。スミレ様にとってタカギ様は、母、父、兄、友人と沢山の役割があったようなので、不安定になるのも仕方のないことだと思います。」 「対処法はあるのか?」 「人によってだと思いますが…不安に感じない程に愛を伝える…などでしょうか。」 「そうか。ならば大丈夫だ。」 侍女の心配そうな表情が微笑みに変わる。 「ふふ。素敵な自信ですね?」 「重いくらいの愛を伝える自信はある。」  きゃいきゃいと楽しそうに笑う侍女たちとの打ち合わせも済み、庭で遊んでいるであろうスミレを覗き見する為に踵を返した。  ここへ来て暫く経ち、毎日無邪気に、にこにこと笑顔で過ごすスミレ。  それなのに夜になれば淋しがり、朝までいるか、起きたらいるかと確認してから眠りにつく。  だがそれも、一日一日と生活するうちに和らいでいく。  ベッドの中で握りしめていた毛布はいつの間にか端に追いやられるようになった。 「クレイグ、あのね、この毛布ね仕舞っておこうと思うんだけど、どこか仕舞うとこ空いてる?」 「持って寝なくていいのか?」 「うん。クレイグにぎゅっとされると温かいから、こっちは仕舞っておこうと思って。」  自分の存在がボロボロな毛布に勝った瞬間はいつまでも忘れないであろう。  綺麗に畳んでクリーンをかけて、一緒にチェストに仕舞う。 「何でかわからないけど、ずーっとこの毛布で寝てたからね、ないとソワソワしちゃってたんだけど、最近はクレイグに抱きついて寝てるから安心する。」  寝苦しかったらごめんなさいと、申し訳なさそうな笑みを浮かべるスミレが可愛くて、可愛くて。  思わず見上げてくる瞼に口づけて、腕の中に閉じ込めた。 「ッタカギ!虫!青い虫!!」  庭園を走り回るスミレを見るのはとても癒される。  幼い言動と幼い仕草、それに美しい容姿がアンバランスで庇護欲をそそられるのだ。  このままでいて欲しいという自分勝手な事を思わないこともないが、このままスミレらしく、沢山の知らなかった事を吸収していって欲しいと願う。 「おー。すげえ真っ青。こわ。良く持てるな…めっちゃ足バタバタしてるじゃん。」  虫が嫌いなタカギは心から嫌そうな顔をして、ほんの少し身体を後ろへ下げる。それに悪戯な顔をして、楽しそうに逃がし、また違う昆虫を取りに走る。 「…うわ。めっちゃ見てくるじゃん。ヤキモチこわ。」  スミレの一番の報告は変わらずタカギだ。何かあればタカギに指示を仰ぐ。 「何度も言うけど、俺は教育係だったの。刷り込みだよ、刷り込み。」 「わかっている。いつか、スミレの一番になれれば良い。」 「スミレは俺の言うことは何でも聞くけど、嫌だとか、食事って言ってるのに寝たいだとか、そう言うのはクレイグだけだよ。肯定するのは簡単だけど、否定出来るのはお前にだけなんだから。そのうち、全部クレイグが最初になるよ。」  自信持てって!とタカギの喝が入る。遠くの方からスミレがまた転びそうになりながら走り寄ってくる。 「クレイグ、これ、この子、この間クレイグに見せた異世界名物テントウムシだよ!この子から、肩に止まったの。」 「一回り大きくなってないか?スミレ凄いな。」  ハァハァと肩で息をするスミレの額の汗をタオルで拭い、日陰に入れれば自然とぴたりと横に寄り添う。 「うん。あのね、ここのね?黒いところがひとつ欠けてるの。だから、同じ個体だと思う!」  侍女から飲み物を受け取り、タカギに以前の話から説明しているスミレへ水分補給させる。 「スミレ、めちゃくちゃ汗だく。疲れてない?ちょっと休んだら?」 「全然大丈夫です!」  タカギがそう尋ねても瞳をキラキラと輝かせてそう答える。だが、そろそろ身体の方が限界だろう。 「本当か?」  スミレをじっと見つめてそう問えば、きょろりと視線を外される。 「んっと、本当は、ちょっと疲れて足がフラフラするの。でも、どうしても捕まえられないムシがいて…羽ムシなんだけど…羽が透けてて、少し良く見せて欲しくて。」 「うげ。あのでっかい蚊みたいなやつ?」 「よし。では一緒に行こう。」 「いいの?」  チラリとタカギを伺うスミレに苦笑いする。 「いいよ。これで大丈夫って押し通してたら無理やり休憩取らせてたけど、ちゃんと、足がフラフラするってクレイグに言えたから合格。」  抱き上げてスミレのいう羽ムシの群れのところへ行き、届くようにスミレの腰を持って上へ持ち上げる。 「おおっ、クレイグ、高い。」 「すまない。怖いか?」 「ううん!すごい!」  スミレは素手で素早く捕まえると羽を観察し、静かにありがとうと呟くと空へと戻す。 「あの羽をね、太陽に透かしたら、凄くキレイなんじゃないかと思ったの。」 「そうか。透かしたらどうだった?」 「思った通り凄くキレイで、思ったより眩しかった…」 「ははっ。そんなに直ぐに戻さなくても良かったんじゃないか?」 「ううん、もういいの。でも、高いところからの景色が素敵だったから、また抱っこしてくれる?」 「言われなくても。さて、戻るか。今日は早めに風呂に入って早く休もう。」 「ん。クリーンじゃ、だめ?」  目標を達成していきなり眠気に襲われたのか、舌足らずな話し方がとても可愛い。 「どちらでも良いが、風呂ならスミレは寝ていてもいい。俺が洗ってやる。」 「んん。暑いのに、クレイグに抱っこされると体温が熱くて、でも心地よくて、眠くなっちゃう。お風呂…クレイグが洗うの?」 「あぁ。嫌か?」 「きもちいいこと、する?」 「しない、とも言いきれないが…スミレが嫌なら自重する。」  愛する人の裸体を見て、何も兆さない者などいない。  スミレは反応が良いから、ついついやりすぎてしまうのが悩みの種でもあるが、スミレの気持ちが最優先だ。 「えっとね、クレイグときもちいいことするの好きだからね?寝ちゃうと勿体ないから…頑張って起きてることにする。あらいっこ、しよ?」  最近タカギが始めたと言っていた性教育の賜物か、タカギに聞こえないようにこそこそと耳許で話され、つい我慢が出来なくなって、タカギに怒鳴られ頭を叩かれるまで、スミレの唇を味わったのだった。

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