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第1話 娼館に売られて

 下級貴族の父親が詐欺にあい、多額の借金を背負うことになり… 家族は離散し男性オメガのアユダルは、借金返済のために男娼専門の娼館に売られてきた。  娼館に来たばかりの頃は屈辱(くつじょく)と恐怖で… アユダルは知らない誰かに、抱かれるぐらいなら、自分の身体が汚される前に、死んでしまいたい!! …と思っていた。  逃げ出そうかと思ったが、住んでいた家は売られ、家族がどこにいるかもわからない。頼れる親戚も知人もいない。  いたら、アユダルが娼館に売られることもなかったはずだ。  だが… 娼館の1階にある酒場のすみで、アユダルが(おび)えながら客待ちを始めて3日過ぎ… 1週間が過ぎ… 2週間が過ぎても…  アユダルを買おうとする客は、1人もあらわれなかった。  結局、アユダルには自害するきっかけも、勇気もなく… ホッ… とする反面、新たな不安が生まれてしまう。 「ねぇ、君! 自分で声をかけて、客を引いて来た方が良いよ?」 「え?!」 「いくらオメガでも、君のように地味で平凡は容姿だと、待っているだけでは太客(ふときゃく)は付かないからさ!」  ビクビクと震えて縮こまっていたアユダルが、可哀そうだと思ったらしく、オメガの先輩男娼が心配そうに声をかけて来た。 「で… でも僕は… 怖くてそんなの… 出来ないよ! 客を取るなんて…」  アユダルは泣きそうになりながら、先輩男娼に訴えると… 「初めは誰でもそうだよ…? だけど借金返済の代わりに娼館に売られたなら、自分の身体で稼いで借金を返さないと、借金がどんどん増えてしまうよ?」 「え? 増えるの?!」 「あ~あ… 君… 貴族だから本当に何にも知らないみたいだね…? まぁ僕も昔はそうだったから、気持ちは分かるけど… あのさぁ、君だってご飯を食べて、ベッドで眠ったり、身体を洗うために入浴するでしょう? そのお金が、君の借金に追加されるんだよ? タダだと思っていたの?」 「そ… そんなっ?! 知らなかった!」  普通に考えれば当たり前のことなのに、僕は本当になんて世間知らずなんだ? 教えてもらうまで、本当に知らなかったよ!! 「この娼館の客は貴族が多いから、まだまともな方だけどね… 君の(かせ)ぎが悪くて借金がたまると、もっと格下の平民が通うような、質の悪い娼館に転売されるんだ! そういう娼館は病気の予防もしてないから… 寿命が縮むんだよ」 「嫌だ… そんなの…困る!」 「だったら、怖くても客を取って稼がないと、生き延びることができないよ? わかった?」 「はい…」 …でも、客を引くと言われても、どうやって引けば良いのか分からない。 「それにね、良い客だと食事をおごってくれるから、その分の食事代が浮くだろう?」  先輩男娼は、客と食事をする他の男娼たちを、アユダルに見て見ろと、ちょいちょいと指を差した。 「そ… そうなんだ?」  確かに男娼たちも、客と一緒に食事をしたり、お酒を飲んだりしている。 「僕が手本を見せるから… よく見て真似(まね)すると良いよ」 「あ… ありがとうございます! ええっと… 僕はアユダルと言います」 「僕はフルタ」  親切な先輩男娼のフルタに助言された通り、アユダルは客の引き方を観察することにした。  

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