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第2話 僕を買う客

 親切に声をかけてくれた、先輩男娼のフルタを手本にしようと、アユダルは客引きをする様子を観察する。  酒場のテーブルで1で飲んでる客に、ニコニコと陽気に笑いながら、フルタは1人ずつ順番に声をかけていることに気が付いた。  そうか! 冷静に考えれば、すぐに分かることなのに… そんな当たり前のことさえ、僕は本当に知らなかったらしい。 「ふむふむ…」  男娼と飲み食いしている客は、一緒にいる男娼を抱くつもりだから… 後から僕が行っても、相手にしてもらえないのか。  それに、そういう客を誘おうとすると… 先に付いていた男娼の客を横取りすることになり、(みにく)いケンカを客の前ですることになる。  実際にアユダルの前で、男娼同士の醜いケンカが起きようとしていた。 「向こうへ行けよ! また僕の客を横取りする気か?!」 「お前みたいな貧相(ひんそう)な身体のやつを抱くなんて、騎士様が気の毒だからさ!!」 「何だと、この野郎!!」  客と一緒にお酒を飲んでいた、男娼がカッ…! と腹を立てて、しつこく自分の客を横取りしようとする、他の男娼の頬をパンッ! と音を立てて平手打ちした。 「よ… よくも人の商売道具の顔を殴ったな?!」 「お前が人の客を奪うから悪いんだろう?! いい加減にしろよ!」  どうやら元々2人は、普段から仲が悪いらしく… 客の前で、取っ組み合いの見苦しいケンカを始める。  あわてて娼館の使用人たちが2人を引き離すが… 無残に顔を()らしたうえに、切れた唇から血を流していた。  醜く(ののし)り合う男娼たちの姿に、アユダルは見るに見かねて2人の側に行く。 「ねぇ! 顔のケガは僕が治してあげるから、ケンカや止めなよ?」 「何だよお前は! 邪魔する…な…! あっ…?!」 「いいから黙って、顔を動かさないで!」  1人の男娼の切れた口にてのひらを当て、アユダルは治癒魔法を使った。  アユダルのてのひらが輝き、驚いた男娼はピタリと動きを止める。   「はい、終わり! 今度はそっちの人も!」  もう1人の男娼の腫れた頬にも、同じように治癒魔法をかけた。  顔が綺麗に元通りに戻ると… 男娼たちは自分の顔をなでまわしている。 「驚いたな! お前は治癒魔法が使えるのか?!」  それまで黙って酒を飲み、男娼たちの醜いケンカを傍観(ぼうかん)していた客が、アユダルに声をかけてきた。 「え…? はい」 「・・・・・・」  ゴブレットに残った酒を全部飲み干すと、客は立ち上がりアユダルの細い腕をつかんだ。   「あっ… あの…?」 「今夜はお前を買うことにする」

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