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第4話 青玉色の瞳

 アユダルの告白を聞き客が振り向いた。  客と視線が合わないよう、あわててアユダルは下を向き、顔を真っ赤に染める。 「初めて?」 「……はい」  恥かしくて… 恥かしくて… アユダルは小さな声で返事をした。  不意にアユダルの小さな(あご)を、硬い指先で客に触れられ、伏せていた顔をクイッ… と上向きにされた。 「名前は?」 「……アユダルです」  自分の名前を答えながら、アユダルは初めて客の顔を直視した。  パチッ… と客と目が合い… アユダルは美しい青玉色(サファイア)の瞳に射貫(いぬ)かれ、息をのむ。  茶色に近い濃い金の髪が、蝋燭(ろうそく)の灯りでキラキラと豪華な琥珀(こはく)色に輝き、鼻筋は真っすぐ通り、鋭くシャープな頬のラインが雄々しく… ボンヤリとアユダルが見惚れるほど、美しいアルファの男だ。  なんて綺麗なアルファだろう?! 僕が知っているアルファは、みんな僕の親戚だから… この人と同じアルファでも、容姿は僕寄りの地味で平凡な人たちばかりだった。  未婚で年頃のアユダルは、家族以外のアルファとの接触がほとんど無かったため… これまでは間近で成熟したアルファを、見たことがなかった。  「私で良いか?」 「え?」 「初めて抱かれる相手が、私で良いのか? お前が嫌なら、ここで止めるが…?」  客は困った顔で笑う。 「ああ! お気づかいありがとうございます! ですが、どうか僕をこのまま抱いて下さい! 僕は何週間もずっと、誰にも買ってもらえなくて… あなたが買ってくれないと、僕は借金がいっぱい増えるんです!」  この人、すごく良い人みたいだ! まさか僕に気をつかうなんて…    男の気づかいが嬉しくて、アユダルは薄っすらと微笑んだ。 「そうか? わかった… ならアユダル、先に手首の抑制(よくせい)リングを外すと良い、私も外すから…」 「あ… はい!」  そうだった! 今までは人前でオメガのフェロモンを放ったり発情することは、恥かしいことだったけれど、こうして客の前では… 逆に喜ばれることになるんだ?!  娼婦や男娼の中でもオメガが好まれる理由は、美しい容姿だけではなかった。  美しさ以上に、オメガが放つ媚薬のような誘惑フェロモンと、発情した身体の(みだ)らさが、客に好まれるからである。   赤い顔でアユダルは、自分の左手首にはめていた、オメガの誘惑フェロモンと発情を抑制する、魔法を組み込まれたブレスレットを外した。  美しいアルファの男も、手首にはめた金の装飾が付いた、ブレスレット型の抑制リングを外す。  そのとたん…   アユダルは恐ろしいほど強烈な、アルファのフェロモンに襲われた。 「・・・はっ?!」  頭がクラクラする! ああ、どうしよう… 目の前が真っ白… う゛う゛っ… 身体の芯がグツグツと沸騰したように熱くなってゆく! こ… これがアルファがオメガに与える性的影響なの?! すごすぎるよ!! 抵抗できない!  じわりと全身に汗がにじみ出て、真っ直ぐ立っていられず、アユダルはその場で崩れ落ち… ブルブルと震える。   少し前までアユダルが感じていた、(おび)えや緊張とは別の種類の震えだった。  こんな風になるなんて、信じられない… 僕のオメガの身体が、成熟したアルファの発情フェロモンを受け取って、歓喜に震えている!!  お腹の中がジクジクするよ! アルファを受け入れたくてジクジクする!!

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