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第9話 弟の剣 レウニールside

 領地にある先祖たちが眠る墓地に、レウニールは家族の墓を建て遺体の無い空っぽの(ひつぎ)を納めると… ペルフメの両親に会いに行き、壊れた馬車で見つけたペルフメの指と共に、棺に入れて欲しいと“花嫁に贈る指輪” を渡した。  それから、白騎士団の団長に手紙を送り、退団の意思を伝え… レウニールは王都の邸宅に引きこもる。  何度も… 何度も… 白騎士団の騎士団長と王太子殿下が、私に会いに来てくださり… 私が必要だと言ってくれたが… 人と会うことが(いと)わしいと思うようになっていた私は、騎士団に復帰することを断り続けた。   ずっと隠者(いんじゃ)のように暮らしていたレウニールだが… 剣と魔法の鍛錬(たんれん)だけは、毎日欠かさず続けている。  騎士団を辞め、仕事が無くなっても… 家族を魔獣に殺されたという悔しさが、孤独の中で生きるレウニールに、魔獣と戦う術である、剣と魔法を捨てることを許さなかったのだ。  毎日、毎日、自分の剣ではなく… レウニールは魔獣討伐が専門の黒騎士団に所属していた、弟の形見(かたみ)の大剣を振り続けた。  白騎士だった時に使っていたレウニールの剣は、護衛に適した防御魔法が組み込まれた、室内でも振りやすい通常サイズのものだったが…  対魔獣戦用に作られた弟の剣は、刃も厚く幅広で長く、魔力が溜められる空色の魔石がはめ込まれていて、防御よりも、強力な攻撃魔法を放てる破壊力のある魔道武器だ。 「ようやく私も、この剣を使いこなせるように、なってきたな!」  裏庭で弟ホビアルの剣を振りながら、レウニールはつぶやき薄っすらと笑う。  鍛錬に使い始めた頃は、この剣の重さのせいで、剣を振るというよりも、剣に振り回される感じが強かったが… 本当にホビアルは、よくこんなに重い剣を、魔獣相手に使っていたなと感心するよ!   手の中にある弟の剣は、家族が魔獣に襲撃された場所で見つかり、青騎士団が回収して保管し、後日、遺族のレウニールの元に返してくれた物だった。  弟ホビアルの命が尽きるその瞬間まで… 共に魔獣と戦った剣だ。  私のミスで家族を失って以来、自分は傲慢(ごうまん)だったと気づき、私には誰かを守る資格は無いと… 騎士団に戻るつもりは無かった。  だが、毎日鍛錬を重ねるうちに、私の腕で誰かを救うことができるなら… 何もしない方が、罪深いのではないかと、疑問に思うことがある。 「私も… 黒騎士団に入るべきか? それとも白騎士団に戻るか? ホビアル… お前はどう思う?」  レウニールは物言わぬ弟の剣に、語りかけてみた。 「まぁ! 私のレウニール様! こんなところに、隠れていたのね!」  この場には似つかわしくない、華やかな女性の声が背後から響き、レウニールはうんざりとしながら振り向いた。 

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