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第27話 伯爵と男娼3

  「フルタ―――ッ!!」  腕をつかまれ引きづられながら、2階の個室へ連れて行かれそうになっている、フルタを助けようと… ()出したアユダルはセルビシオ伯爵に体当たりをした。  …だが、屈強(くっきょう)な騎士の身体に華奢(きゃしゃ)なオメガが思いっきりぶつかっても、びくともせず… 逆にアユダルの方が、はね飛ばされてしまった。 「うわっ…?!」   ああ、クソッ…!! どうしよう… 大きな岩か壁みたいだ! 僕ではぜんぜん、歯が立たないよ! 「何をする、お前!」 「フルタを放して下さい! フルタはケガ人です! これ以上暴力を振るわれたら死んでしまいます! い… いくら僕らが男娼でも、殺せば、あなたの罪になりますよ?!」  とにかくフルタから、この頭がおかしい凶暴な奴を、引き離さないと!   出せる限りの大声で、アユダルはセルビシオ伯爵に向かってさけんだ。  アユダルのさけび声に反応し、ザワザワとざわついていた酒場が、シーン… と静かになる。 「何を言っているんだお前は? 私はこいつに、仕事をさせようとしているだけだ! 私に買って欲しいのなら、諦めろ! お前のような貧相(ひんそう)な奴など金を払う価値も無いからな!」 「僕… 僕は、あなたのような悪漢(あっかん)に、買って欲しくなどありません!!」  侮辱されて顔を真っ赤にしたアユダルは、伯爵に立ち向かうが…   ガツッ……!!! 一瞬… アユダルには、自分に何が起きたのかわからなかった。 「ぐっ…?!!!」  アユダルの顔に、セルビシオ伯爵の(こぶし)が飛んで、殴り飛ばされたのだ。 「生意気な…っ! (しつけ)の悪い男娼ごときが―――っ!!」 「ううっ…」  頭がぐらぐらして動けないよ…! フルタと逃げないと…  アユダルの言葉で激怒した、セルビシオ伯爵はフルタの手を放したが… 床に転がるアユダルの髪を引っ張って立たせ、再び顔を殴ろうとした。  …その時、ビュウッー! とアユダルのまわりで魔法の風が吹き、セルビシオ伯爵の頬が、風のカミソリで切れて傷つき、たらたらと血が出る。 「くっ…?!」  警告をしてアユダルを止めようとした男娼が、風の魔法を放ちアユダルを助けたのだ。  自分の頬を手でぬぐい、指についた血を見てから… セルビシオ伯爵は風の魔法を放った男娼をにらんだ。 「貴族に暴力をふるい、ケガをさせたらどうなるか、お前はわかっているのか?!」 「・・・・っ!」  風の魔法を放った男娼は、ガタガタと震えながら、青ざめる。  セルビシオ伯爵は、ゆっくりと男娼に見せつけるように、腰に下げた大剣を(さや)から抜いた。

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