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第26話 伯爵と男娼2

「お願いです伯爵様! どうかお許しください! お許しください!」  泣きながら(おび)懇願(こんがん)するフルタの姿が、まわりにいた客たちの目にも(あわ)れにうつり、見かねたアルファの貴族たちが仲裁に入った。 「なぁ、君! その子がそんなに嫌がっているのなら、止めてやってはどうだろうか?」 「酒の飲み過ぎではないのか? 今夜は遊ぶのを止めて家に帰った方が良い」 「そうだ、その方が良い! 見ているこちらの方が、気分が悪い」  横から口を出されて、セルビシオ伯爵はカッ… と腹を立てる。 「私は魔獣との戦いを終えたばかりで、気が立っているんだ! こいつに身体をなだめさせて何が悪い! お前たちが平穏に暮らせるのは、誰のおかげだと思っているのだ?! この私が魔獣と戦っているからだ!!」  セルビシオ伯爵は、仲裁しようとした貴族たちを怒鳴り付けた。 「放して、ううっ…! 嫌だっ… 放して!」  仲裁に入った客たちと、セルビシオ伯爵が話をしているすきに逃げ出そうと、必死で暴れたフルタのせいで… マントの留め具がはずれ、セルビシオ伯爵が下に着ていた、黒騎士団の騎士服があらわになった。  黒騎士団とは王国でも特に優秀な魔法騎士が集められた、魔獣退治が専門の騎士団である。 「・・・っ!」  仲裁に入った貴族たちもハッ… と息をのみ、急に黙り込む。  領地を持つ貴族なら、どの家でも魔獣の襲撃は深刻な問題であり… その魔獣退治を受け持つ、黒騎士団の騎士の機嫌を損ねたくなくて、何も言えなくなったのだ。  大人しくなった貴族たちを見て、セルビシオ伯爵はニヤリと笑い、人の目を気にせず泣いて許しをこうフルタを、2階の個室へとずるずると引きずって行く。 「お願いです、伯爵様―――っ!」 「ダメだ!! 今夜はお前が相手をしろ!」 「僕はきっと今夜も途中で気絶して、きっと伯爵様を不快にさせてしまいます! ですから、お許しください! お許しください!」  ケガが完治して、ようやく仕事に復帰したばかりのフルタが、再びセルビシオ伯爵の理不尽(りふじん)な暴力で、傷つけられようとしている。 「・・・っ」  アユダルはぶるぶると恐怖で震えていた。  乱暴されたフルタの身体を、最初に見たのはアユダルで… フルタの痛ましい姿は、今もアユダルの中で生々しく鮮明に残っている。  こんなのダメだよ! 次は本当にフルタは死んでしまうかもしれない! 逃がさないと! この場を逃げきれば、きっと何とかなるはず!   アユダルに警告し、肩をつかんでいた男娼の手を払いのけ、フルタに向かって()け出した。 「あっ! おい、バカッ… 止めろ!!」 「・・・っ」  逃げきれればきっと、何とかなる!  

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