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第1章 チンコケースにおいでませ

    第1章 チンコケースにおいでませ  街路樹の青葉が風にそよぐ、すがすがしい朝だ。車体は珊瑚色、荷室は象牙色に塗り分けられた宅配便のトラックが、横断歩道の手前で停まった。老婆がよちよちと渡り終えるのを待つ間、 「♪愛と笑顔の真心便、キクアナ、キクアナ、キクアナ運輸……イェ~イ!」  世良愛一郎(せらあいいちろう)は、勤め先のCMソングを口ずさんだ。再び走りだすと、住宅街へとハンドルを切る。  バックミラーをちらりと覗く垂れ目に愛嬌がある、御年(おんとし)二十八歳。元気印のイケメンだ。冬はブルゾン、夏はポロシャツ仕様の野暮ったい制服だって、しゅっと着こなす細マッチョさんなのだ。  さて、とある中層マンションに配送車を横付けにすると、段ボール箱を小脇に抱えてエントランスに駆け込んだ。五〇八とテンキーに打ち込み、カメラモニターが明らむと同時に白い歯をこぼす。 「おはようございます、キクアナ運輸です!」 「抽選の結果はどうなの、当たり、外れ!?」  と、前のめりに聞いてくる声に荒い息づかいがかぶさってハウリングが起きるようだ。宅配ドライバー歴六年の勘が働く。受領証の記名欄によると、こちらのお宅の小池(なにがし)氏は、インターフォンの通話ボタンを押すかたわらイチモツの準備運動に励んでいらっしゃるご様子だ。 「当選、おめでとうございます」  世良がモニターに向かって腕で丸を作ってみせると、スピーカーを破壊しかねない音量の万歳三唱がそれに応えた。小池の狂喜乱舞ぶりといったら、エレベータが五階に到着するのももどかしげに、五〇八号室から飛び出してきたほどだ。  それはルーティンワークのひとつだ。世良は荷物とともにおじゃまして早速、制服のスラックスをずり下ろした。を進呈するにあたってはTバックが便利で、双丘の割れ目を這ういわば紐をずらし、 「では、受け取りのをお願いします」  チンコケースという衛生用品を挿入してある玉門をパクパクさせた。壁を向いて手を突くと、肩越しにスケベ(づら)へと笑いかける。 「中心めがけて、さあ、どうぞ」  待っていましたとばかりに、ぎんぎんにおっ()ったそいつがサンバのリズムで、ずん!  「ん、くぅ……っ!」 「あひぃ、締まる、締まる締まるう……!」  収まるところに収まったからには「あっは~ん」で「うっふ~ん」なピストン運動へと移行するのが自然な流れだ。だが、いかがわしい展開はあくまで業務のうちで、三文判になぞらえたイチモツで(なか)を突いてもらいしだい目的を果たす。なので即座に抜き去るのと引きかえに段ボール箱を渡して、これにて配達完了。

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