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第50話

 空が光った。ぎんぎんに屹立した男根も薄桃色のコンドームをまとって、ぬめぬめと光る。ところが、 「不肖・中村、男になります!」  勇ましい掛け声と裏腹、ムスコは方向音痴だ。ギャザーをかき分けそこなって、つるんとすべった。あたかも双丘の割れ目の上に妙ちきりんなが載ったような図を思い浮かべていただきたい。 「ドンマイ、ファイトでもう一回」  世良は肩越しに笑いかけた。ヘボ、と内心毒づきつつも腰を掲げ気味にくねらせる。  ごふごふ、ふんがふんが。中村は荒い鼻息でしたたり落ちる汗を吹き飛ばすと、もたもたと花芯に先っぽをあてがった。そして、ぐい! と貫いたつもりが再び逸れて、びたんびたんと宙を掻く。  興奮と緊張と不器用さが三つ巴となって手足を操るようでは、たとえ玉門のサイズが土管のそれ並みに巨大化しても的を外すだろう。 「かっ、勘違いするな。ウケを狙ってわざと失敗したんだ。いいか、わざとだ」  バレバレの嘘が、かえって痛い。 「三度目の正直っていうじゃないですか。ラストチャンスに賭けて、つぎは慎重に」  と、しっかり釘を刺す一方でボランティア精神を発揮し、攻め込みやすいよう花びらをめくってあげた。  こちら、と矢印が順路を示している通りに進めば目的地に着くように、どうにかカリが門をくぐった。やれやれ、というふうに内壁がうねり、を押した形が成立するまぎわ、 「廊下にキクアナ運輸のキャップが落ちているんだけど、もしかして世良くんのかな」  玄関扉が外側から開いた。雷雲が数珠つなぎになってレジデンス・デイジーホールの上空に押し寄せ、あたり一帯が禍々しく翳る。開放廊下の常夜灯が(とも)り、眼鏡のレンズに反射する。  つまり、こういうことだ。中村が先ほど世良を力任せに引きずり込んださい、勢いあまってキャップを薙ぎ払った。さらに蹴り脱いだサンダルが戸枠の隅に挟まって、ストッパーを嚙ませた状態になっていたのだ。 〝チンコでハンコ〟が叶うか否かで頭が一杯で、子種が沸騰するような状況下、施錠をすませたか確認する余裕があるか! というわけだ。  三十秒ほど時間を巻き戻して若草の行動を振り返ってみるとしよう。締め切りに追われて現実逃避を図りたい衝動に駆られた結果、コンビニへ花火を買いにいくため部屋を出たところでキャップを踏んづけた。と、同時に、大方の小説家が執筆の材料集めのため脳内に標準搭載しているアンテナが、ピピっと反応した。  四〇五号室の扉に隙間ができていて、オイシイ匂いがする会話が洩れ聞こえてくる。ええい開けちゃえ、とドアノブを摑んで引っぱると、いやはや、これは驚いた。いわゆる立ちバックで番う光景が目に飛び込んできたのだ。  官能色豊かなネタを労せずして摑んだからには棚ボタと大はしゃぎしても不思議ではないのだが、立ちすくむ。  とっても仲よしの世良くんが不潔、幻滅した──そういう範疇に収まらず、心が波立つ。

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