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恋人が可愛くて、今日も人生が楽しい 2

 マワーが朝ごはんの片付けを終えて戻ってきたら、満腹になったリリがうとうとしていた。  「あちらにベッドの用意もしていますよ」  「ごめんなさいマワーさん…あまり寝てなくて…」  「気にせず寝てしまっていいんですよ」  「うん…」  旅の期間、ほとんど野宿をしているリリが、寝ていないというのは嘘ではなく。    ほどなくして規則正しい寝息が聞こえはじめてきた。  マワーは、薔薇の花びらを一枚外し、モニャモニャ唱える。  リリを抱きあげ、軽々とお姫様抱っこをする。  「ナガ、見てないで手伝ってください」  「えーオレも長旅で疲れてんのに…」  「飛べるくせにリリの肩で休んで楽ばかりしているのを知ってますよ」  「うえぇ」  ナガと呼ばれた肩乗り竜は、お手伝いを渋る少年のような口調で、文字通りしぶしぶ寝室のドアを開けた。  リリをベッドメイクしたての清潔なシーツの上に寝かせて、安眠していることを確認してマワーはほっと一息ついた。  ふくらはぎまである編み上げのブーツを緩めていく。  「あっ、こんなところに傷が…ナガ!」   「はっ?」  「お前が付いていながら嘆かわしい…管理不行届ですよ」  「いやいやいやかすり傷一個でしょ?! 舐めときゃ治るレベルで突っかかってくるの止めてくんね?」  「はぁ…"竜"の名が廃ります。お前の代で"竜"も終わりですね…」  「ごめんね!」  すっきりした表情でリリが起きてきたのは、もう日も傾き始めたころだった。  寝癖が酷い。  「おはよ…」  「もうすぐ夕食の支度が終わります。もちろん食べますよね」  「食べる…」  「顔を洗ってらっしゃい」  「うん…」    「マワーさんがベッドまで運んでくれたんですか」  「まさか、残念ながら私の細腕でそんなことはできません。声をかけたら寝ぼけながらご自分で寝室まで歩いていきました。まあ、靴は脱がせましたが…」  「ガァ」  「そうだったんですか。靴ありがとうございます」  「それくらい喜んでさせていただきますよ」  「ガァ」  マワーがナガに氷のような視線を送る。  「ガァ~」  ナガは、やぶ蛇~と鳴きながらコソコソ寝室から飛んでいった。    「ナガ…元気ないみたいだったけど大丈夫かな」  「大丈夫です。頑丈な竜ですから」  「長旅で疲れたのかな」  「心配には及びません。元来竜は殺しても死なない図太い種族です」  「まあ…」  「リリの肩に乗っているくらいで疲れません」  「あはは。マワーさんどうしてナガが俺の肩から動かないの知ってるの?」  「あてずっぽうでしたが、当たってましたか、フフ」  ナガが『ジジィのぶりっ子なんか見たくねーんだよ!』『この二枚舌!』と叫んでいたが、マワーにとって幸いなことは、リリには竜の言葉が通じないことだった。

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