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恋人が可愛くて、今日も人生が楽しい 3

 次の日。  今日は晴れていたので、マワーは、畑に水やりを終えたあと、魔導に使える薬草類を収穫することにした。  一部は品目別に仕分けて風が通る場所に吊るして干す。  こうすると早く乾く。  乾いたものはすり潰して粉末にする。  この粉は、魔導の陣を書くために、または薬にもなる。  残りは、新鮮なうちに隣山の麓にある市場まで卸にいく。    「マワーさん、市場へは俺も一緒に行ってもいいですか」  「もちろんです」  「どんなものが売っているのか、流行りの植物とかも見てみたいので」  「そうですね。終わったら市場だけでなく、街の中も見て回りましょう」  「ガァガァ」  「あの、ナガも…」  「ナガは置いていきますよ」 「…はい」    マワーが家の裏で荷造りをしていたら、支度を終えたリリがやってきた。  「遅くなってごめん」  「もうすぐ終わりますから待ってくださいね」  「はい」  リリがゴソゴソカバンを漁り、いくつかのものを取り出す。  「これ」  大きい手のひらに、小袋が三つ乗っている。  それをマワーに渡す。  「これは?」  「西の鳥山で見つけました」  「きれいな種だ」  一つの袋から出てきたのは、小指の先ほどのつるんとした種。少し赤みがかっている。  「ひと月くらいしか観察できなかったんですが、薄い花びらで赤い星型の花が咲きます」  「へえ」  「これは不思議なことに、花より葉のほうがいい香りがしました。マワーさんの畑に植えてほしくて…」  「もちろんです、素敵なお土産をありがとうございます」  もう一つの袋には種、もう一つは葉を乾燥させたものが入っていた。それぞれ説明をしてもらう。  「これらがどんなものになるのか楽しみになってきました。魔導に使えるかどうかも確認しておきますね」  「俺は魔導が使えないから、持って帰った種が魔導に使えるものかわかりません。いつもマワーさんを頼ってしまいごめんなさい」  「リリの役に立てるならそれくらい造作もないこと。気にしなくていいです」  「ありがとうございます」  はにかみながらお礼を言うリリに動かされ、マワーはリリの頭をつい撫でてしまう。  「…可愛いですねリリは」  うっかり声にもしてしまった。確信犯だが。  「もう、やめてください。早く行きましょう」  リリが素直に頬を染めるので、マワーの手癖がなおるはずがなかった。    十分も歩けば隣の山に着く。  マワーにとって、距離は無いに等しい。  「もうすぐ着きます。荷物大丈夫ですか、重いでしょう」  「いえ、これくらい。旅の荷物に比べたら軽いものです。それより俺は、マワーさんのようなすごい魔導師を見たことがありません」  本来なら、丸一日は歩かないと市場のある街、シンドットには着かない。  しかし、森の中を歩いていたら、景色が変わった様子もないまま、目の前にシンドットが見える。  魔導師に憧れを抱いているリリは、マワーの起こす魔導術にいつも目をきらきらさせている。  「そうですか」  「マワーさんは秘密だらけです」  森の中を太陽の方に歩いていくと、道が開けて歩きやすくなる。  市場で賑わう街、シンドット。  小さいが、活気のある街だ。  街の入口で、荷物を持ち直したリリが言う。  「いつか、俺にも教えてくれますか」   夢見る少年のような表情で、リリが言う。  「そうですね…、いつかリリになら、すべてを打ち明けても良いと思っていますよ」

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