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第1話

東尾明が西園新と出会ったのはおよそ十二年前。明がまだ中学二年生の時だった。  有名なデザイナーの父親に憧れていた明は、普段から自分で服をデザインし、暇があれば部屋に篭り服を作っていた。  学校では手芸部に入部し、部活の時間も絶えず服を作り続け、それを自分で作ったネットショップで売って生地代を稼ぎ、また服を作った。  たまに、幼馴染の北尾敦と遊ぶ事はあるが、その遊んでいる最中にもアイディアが浮べばスケッチブックに描いてしまうほどに、明は服のデザインを考えることが好きだった。  そんな明はあまり成績が良くなく、担任の先生からは『学力があればデザイン専門の高校に行けるのに』と言われて悔しい思いをしていた。  そんな明を見た両親は、心配して親友のモデル夫婦に頼み込み、家庭教師を付けることにした。  それが、当時高校一年生の新だった。  初対面の日も、明はいつも通り部屋で服を作っていた。  その日作っていたのは、初めて依頼されたパーティードレスで、いつも以上に張り切って作っていたため、新が来ることを忘れて部屋中に生地や資料の本を散らかしっぱなしだった。  ミシンを走らせていた明は、喉が渇いたので作業を中断し、顔を上に上げる。 ずっと集中していたためか、目が霞んで見え、何回か瞬きをしてから椅子から立ち上がると頭が少しばかりクラクラする。  これまで、作業をしていてもこんな経験はなかった明は、すぐに治るだろうと思いながら扉へ向かおうと足を踏み出した。  フラフラと歩きながら扉に近づくと、何かに躓いた。 「あっ!」  よろけて倒れそうになるが周りに捕まれそうな物はない。  その時、部屋の扉が開き誰かが部屋へと入ってきた。 「危ない!!」  入ってきた人影に強く抱きしめられる。  薔薇のような香りが鼻をくすぐり、明は安心して胸を撫で下ろした。 「怪我はない?」  これまで聞いたことがない人の声に明は少し身構える。  今日は誰か来る予定だったかと考えながら、その人影が誰かを確かめるため明は手を振り解いて距離を置いた。 「大丈夫。ありが……えっ!?」  明は、目の前に突然現れたセンターパートの茶髪に茶色い瞳に透き通るような白い肌をした王子様風のイケメンと目が合うと、驚いて目を見開いた。  まさか、倒れそうになった瞬間に異世界にでも転生されてしまったのではないか。いやいや、そんなラノベの読みすぎでは。と首を振る明を見ながら新はクスッと笑った。 「初めまして。今日から家庭教師をさせてもらう、西園新です」 「か、家庭教師!?」  そういえば今日来るって父親が言っていたなと思い出した明は、もう一つ重大な事を思い出した。 (どうしよう。今日からこのイケメンと二人きっきりになるんだ)  物心つい頃に自分はゲイだと気づいていた明は、不毛な恋を避けるためあまり同世代の男子と関わらずにいた。  なのに、こんなにタイプな歳上の男性と二人っきりで長時間一緒にいるだなんて生殺しすぎる。 「よろしく」  慌てている明に気づいていないのか、新は手を差し出して握手を求める。  細長く爪の先まで整っている指がとても綺麗で見惚れてしまう。 「よ、よろしく」  緊張気味に手を差し出すとガッチリと捕まれ、両手で手を握られる。  驚いて新の顔を見ると透き通った瞳と目が合わせられ、微笑まれる。 (こんなの恋に落ちない奴いないだろ。この人は俺に何を求めてるんだ)  明は初めて出会うタイプの人間に戸惑いを覚えながら、服のデザインと同じくらいに強い興味を示してしまっていた。 「それにしても、少し手が熱いね。顔も赤くなってるし」 「そ、そうですか?」  心配そうな顔で見つめられながら両手で手を擦られると、心臓がうるさいくらいにバクバクと鳴り響く。  もしかして、速攻で気持ちに気付かれてしまったのだろうか。 「あの、手。もう離してもらってもいいですか?」 「あっ、ごめん。癖で」  新は両手を名残惜しそうに離すと、手を後ろに持っていき組んだ。  もしかして、勘違いだったのだろうかと少し気まずくなった明は、握られていた手の温もりをもう片方の手にも移すように前で組む。 「あの、癖ってどういう事ですか?」 「あぁ。海外生活が長いからなのか、スキンシップが激しくなっちゃうんだ」 「そうだったんですね。なんだ」  気持ちに気付かれていたわけではなかったのかと、明は胸を撫で下ろす。  その様子を見た新はすまなさそうに眉を下げた。 「ごめん。いきなりで驚いたよね」 「いいえ。そういうことなら平気です。それより、勉強するなら部屋片付けないと」  明は後ろを振り返ろうと一歩足を踏み出そうとする。  しかし、なぜか体がふらついて上手く動いてくれない。 「あっ」  また倒れそうになったところを、新に後ろから両肩を捕まれ助けられる。  さっきより顔が至近距離に近づき、ますます顔に熱が上がってしまう。 「やっぱり、熱があるんだよ。ちょっとおでこ貸して」  顎に人差し指を置かれ強引に新の方を向かせられると、顔が近付いてくる。 (キッ、キスされる!?)  明は硬く目を瞑りながら、心の中で敦が言っていたファーストキスはレモンの味がするというのを思い出していた。  しばらくしておでこに何かが当たり、明は目を開いた。 (う、嘘!? どうしよう)  目を見開くと、目を瞑った新の顔が息がかかりそうな距離まで近づき、おでこが合わさっていた。  近くで見ても綺麗な肌と長いまつ毛に見惚れて固まってしまう。  もし、このまま目があったらどうなってしまうのだろうと、明は胸を高鳴らせた。  しかし、期待は虚しくしばらくすると、おでこが離れ、顔もどんどんと離れていってしまう。 「やっぱり熱があるみたいだな。今日は勉強はいいからゆっくり休みな」 「熱! 朝はなんともなかったのに」  明はおでこに残った温もりを確かめるように、手でおでこを摩った。 「さっきまで、夢中になって洋服作ってたみたいだし、きっと興奮して熱がでちゃったんだよ」 「興奮って……」  確かに、初めて依頼されたパーティードレスを作るのに夢中になって、興奮していたような気がする。 「ほら、パジャマに着替えて今日はベッドで休むんだ」  もう一度、後ろからガッチリ肩を掴まれて、ベッドの方を向かせられる。  さっきより体が一段と熱くなって、これまで感じたことがないむずむずとした感覚がするのを、明は風邪のせいだと思いながらベッドに向かった。

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