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第2話

 明が恥ずかしそうにベッドサイドに腰掛けると、新は目の前で仁王立ちになりながら何か納得したように頷く。 「で、パジャマはこのタンスの中か?」  ベッドの横に置いてあるダンスの方を向いて、新は引き出しを開けようとする。  それを、明は慌てて止めようとした。 「まって! 自分で取るから!」  いくらなんでも、出会ってから数分しか経っていない相手、しかもタイプの男子にタンスの中を見られるのは恥ずかしすぎる。  敬語を使うのを忘れるほどに焦っている明を怪しく思ったのか新は、ニヤニヤと笑いながら明の方を向いた。 「もしかして、タンスの中にエロ本でも隠してるのか?」 「そ、そんな物持ってない」 「本当に?」 「本当!」  これまで、デザインの事ばかり考えていたせいなのか全く性的な物に興味を持ってこなかった明は、エロ本はおろかエロサイトも見たことがなかった。  あまりに強い眼差しで見つめられ、新はあっさり降参した。 「分かった。じゃあなんでそんなに焦ってるんだ」 「そ、その」  正直に恥ずかしいと言うべきなのだろうか、けれども普通なら男同士で恥ずかしいという感情は生まれないから、明はダンスを開けれるのだろう。  しかも、スキンシップが激しい方だし、会ってすぐダンスを開けるくらい、これまで普通にしてきたのだろう。  そういう結論に至った明は、誤魔化すことにした。 「実は、点数が悪かったテスト用紙をタンスに隠してて」 「なんだ、そんな事か」 「ごめんなさい」  嘘をついてしまった罪悪感から涙ぐんでしまう。  そんな明を見て新は目を見開きながら驚いていた。  男なのにすぐに泣いて引かれてしまっただろうかと、明がしょんぼりしていると、新が前にしゃがみ込こんだ。 「いいんだよ、そんな嘘くらい。俺だって嘘ついた事あるし」 頬に手のひらが近づき、優しく撫でられる。  広くて暖かい手のひらに自然と涙が止まり、笑顔になっていた。 「新さんも、赤点取ったことあるの?」 「んー。それはないかな」 「えっ! じゃあ。頭いいんだ」 「家庭教師出来るくらいにはね」  頬を触っていた手が頭に触れ、小動物を撫でるような手つきで撫でられる。  顔が熱くなってしまっているのは、きっと風邪のせいに違いない。 「タンス。開けるよ」 「う、うん。パジャマは下から三段目に入れてあるから」 「分かった」  新は言われた通り下から三段目のダンスを開け、中を覗き込む。  すると、何故だか一点を見つめたまま固まってしまった。 「どうかしました?」  心配になった明がベッドから立ちあがろうとすると、声に反応した新が意識を取り戻した。 「いや、なんでもないよ。ところでこの可愛いパジャマとパンツはなんなんだ」  新が黒色に茶色のくま柄が入っているトランクスを両手で明に見せるように摘み上げる。  くま柄のパンツが見つかってしまった事よりも、触られた事の方が恥ずかしくて明は顔を真っ赤にさせた。 「そ、それは、母さんの趣味で決して俺が選んだんじゃ」 「そんな慌てなくて大丈夫だよ。明はこのパジャマとパンツ似合いそうだな。これに着替えようか」  新は持っていたトランクスを丁寧に畳むと、パジャマの上に乗せて一緒に明に渡す。  受け取った明はそれを膝の上に置くと、その上に手を置いて恥ずかしそうに新の顔を見た。 「いいけど、パンツも着替えるの?」  これまで、恥ずかしいけれど母親に買って貰ったお気に入りの物からと、誰にも会わない休みの日にだけ着ていたパジャマを新に似合うと言われて嬉しかった明は上機嫌になっていた。  しかし、パンツまでお揃いのクマ柄に履き替えるのはかなり恥ずかしい。 「汗で濡れてるだろうし、当たり前だろ。その前に体拭かないとな。ちょっとタオル取ってくるから待ってろ」  新は立ち上がると、部屋の扉に向かって歩いていく。  ひとつひとつの動作が滑らかで美しい新を、思わず明は目で追ってしまっていた。 「分かった。体は自分で拭くから」  何故だかむずむずしてしまっている体を触られてしまっては困ると、慌てた明は扉を開けようとドワノブに手をかけている新に声をかけた。  新はクスリと笑ってから、笑顔で明の方に振り返る。 「明は安静にしてなきゃダメだろ。俺が拭いてあげるから待ってな」  それだけ言い残して部屋を出て行ってしまった新に、明は何も言うことが出来ずに、固まってしまった。  きっと、新はこれまでも看病する時にこうやって人の体を拭いていて慣れているのだろう。  それなら、断るのは失礼じゃないのだろうか。  明は、勘づかれないように演技をしようと決心をして新の帰りを待った。

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