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第13話
木龍から寝間着を着せられた九曜は木龍に抱かれて寝室に入った。
燭台はないが、窓の外に浮かぶ満月の月明かりに満ちて昼のように明るい広い寝室の中央には巨大なベッドが置かれていて、その奥には翼弦が扇子をもてあそびながら待機していた。
「待ちかねたぞ」
薄く笑みを浮かべていた翼弦は、九曜と目が合うなり、笑みを深めた。
翼弦の存在に気づいた九曜は、翼弦の意図している遊戯の全貌を本格的に理解すると同時に、不安を増幅させた。
(よくもそんな悪趣味な遊びを思いつくものだ!)
「お、降ろしてくれっ、木龍」
木龍の腕の中で、九曜は激しく抵抗した。
木龍は九曜の抵抗など気にも留めず、九曜をベッドの上にそっと降ろした。
九曜はすぐに起き上がろうとしたが、再度木龍からベッドの上に押し倒された。
九曜は横眼で翼弦を確認すると、翼弦は相変わらず底知れぬ笑顔で九曜を眺めていた。
昨日、九曜は翼弦から手籠めにされそうになり、翼弦のもとから脱走した。その際、仙術を用いて翼弦を不能にさせてしまった。
不治の傷ではないが、格下の者から手傷を負わされたのだ、翼弦の怒りは人間には計り知れない。
翼弦の柔和な顔からは想像もできない報復が待っていることは、九曜も覚悟していた。
九曜が覚悟していた通り、九曜は翼弦から生ける彫像にされた。
彫像にされた九曜は、自分はこれから宝物庫の蒐集物の一つにされ、翼弦から鑑賞される毎日を送るのだと絶望した。
しかし報復はそれだけではなかった。
「さあ、木龍、早速始めよ」
「承知いたしました」
翼弦の命令にうなずいた木龍は、早速九曜の寝間着を引き剥ぐ。
九曜は木龍を自分から離すべく、木龍の胸を手を伸ばして押さえつける。
木龍を食い止めている間、九曜は翼弦の方を見て叫んだ。
「お願いです、お許しください、翼弦様!」
九曜の必死の懇願にも関わらず、翼竜は肩を揺らすだけだった。
大男の木龍の力を食い止め続けることは敵わず、九曜は木龍から口づけられた。
「う……」
九曜の唇に、舌が入り込んできた。不快感を消し去ろうと、九曜は侵入してきた舌を噛んだ。
舌を噛まれて驚いた木龍は、瞬時に九曜から体を引き離した。
九曜は口元を押さえてうめく木龍を睨みつけた。
「木龍、続けよ」
冷徹な翼弦の声を聞いて、木龍は再び九曜に襲いかかる。
両肩を押さえつけられた九曜は、身動きが取れないまま、露わになった肌に木龍の血の混じった口づけを受けた。
「い、嫌だ……っ、幻以……っ」
「先ほどお手入れさせていただきましたが、九曜様のお肌は、柔らかいですね」
くぐもった笑いを響かせて、木龍は九曜の首筋、肩、胸元に唇を滑らせて、跡をつけていく。
不快感に耐えきれずに、九曜の目から涙が零れ落ちた。
九曜は木龍の良心に訴えようと、再度木龍を睨みつけた。
驚くべきことに、木龍の黒い瞳に、一瞬情愛が溢れたのを九曜は見てとった。
(……?)
疑問符の後、九曜は全てを理解した。
木龍の愛撫を受けながら、落ち着きを取り戻していった。
「ついに観念したのか? 九曜よ」
翼弦のからかう声に、九曜は返事をしなかった。
返事どころではなく、木龍の愛撫は、九曜の興奮を徐々に高めていった。
「お主は夫がいる身で、他の男に触れられても感じるのか? 節操のない体だのう」
「違……っ」
翼弦の揶揄は際限なく九曜を貶めるが、木龍は九曜に反論する間を与えない。
木龍は九曜の胸の先に唇で触れては優しく食みながら、翼弦をかえりみる。
「媚薬を含ませた香油で九曜様をお手入れいたしましたので、そのせいでございましょう」
木龍は愉しそうな口ぶりで説明した。
追い詰められた九曜は木龍にすがりついて薄闇の中でもそれとわかるほど頬を染めていった。
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