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第46話

 翼馬で吉祥山を下りた九曜と幻以の二人は街中にいた。  白昼の砂塵が吹きすさぶ街中には市が立っていて、賑わいを見せている。  市の中に欲しい物を見つけた九曜は、立ち止まって幻以の方を振り向く。 「それでいいのか?」  九曜が頷くと、幻以が懐から財布を取り出した。  透き通った美しさの玉佩をひとしきり眺めて腰に帯びると、九曜はさっさと歩き出す。  支払いを終えた幻以が後を追い、一緒に歩き出す。  九曜の横に並んだ幻以は、ちらりと九曜の口角が僅かに上がった横顔を見て、満足した表情になった。 「次はどこへ行く?」  聞かれて、九曜は考えをめぐらせたが、目的の買い物を終えたので、特にこれといって行く宛てはなかった。 「食事でもしますか?」  九曜が幻以を見上げたその時だった。  ふいに袖を掴まれた九曜は狭い路地裏に引き込まれた。  人気のない通りの壁に押し付けられた九曜は、幻以から唇を塞がれて目を見開いた。  彼の横暴なやり方には慣れている九曜だったが、人が見ていない場所といっても外だ。抵抗はある。 「……っ」  幻以が握り締めた九曜の服の肩口が悲鳴を上げて縫い目が裂け、九曜の肌が露出した。 「やめろ……っ、服が……っ」  口吻をかわして九曜は訴える。 「買ってやるから、好きにさせろ」  九曜の耳元で囁く幻以の声は興奮していた。 「いい匂いだ。堪んねぇ」  九曜の堪忍袋の緒が切れた。 「そういう問題じゃない!」  突き飛ばした頃には九曜の服はあちこちが裂けていた。  九曜は怒りを剥き出しにして幻以を睨みつける。  しかし幻以は臆しない。 「外は嫌だ」 「外じゃなかったらいいんだな? 九曜」  懲りない幻以に九曜は返事をせずに眉を寄せた。  幻以は自分の上着を脱ぐと九曜に着せて、路地裏から出た。 「どこへ行くのですか?」  不審に思い九曜は幻以を見上げて聞いた。  幻以は艶やかな視線を九曜に注いで九曜の背を押して歩いた。  二人は大通りを歩いて行くとやがて一軒の茶屋にたどりついた。  中に入ると、幻以は早速店主に挨拶して、奧の部屋に通してもらった。  幻以は得意げな面持ちで九曜に話しかける。 「奥が連れ込み宿になっていてな……あれ? 俺、なぜ知ってんだ?」 「きっと、幻以様が修行時代によくお通いになった、行きつけだったんでしょうね」  九曜は言葉に棘を孕んでしまうのを隠せなかった。  仙洞での修業時代、幻以はよく人目を盗んで街に出かけては夜分にこっそりと帰ってきているのを知っている九曜だった。 (そういうことだったのか) 「拗ねているのは俺を想ってのことか?」  幻以がにやにやしながら九曜に聞く。  九曜はそっぽを向いた。  「知りません」 ※表紙画像を一時的に作者がAIで生成した九曜のイメージに差し替えてます。イメージを膨らませていただけると幸いです。  

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