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コスプレ大会…かな?

 派手な飾りのされた運動会の門みたいなものが立っている。  それは今日のロードのためのものではなく、 【アイドル大集合!みんなともだちだよ♡】  と書かれていて、そんなに広くはないゲート前は人で溢れかえっていた。 「ここでスターター鳴らすの、運営の人も勇気いるなぁ…」  緑色の腕章をつけた大会運営のスタッフに、各々のオドメーターの現在の数値を申請しながら、銀次が運営スタッフにー大変っすねーなどと声をかける。  スタッフは笑いながら、結構恥ずかしいっすよねと笑ってから、誤差は−5kmだと伝えてくれた。  つまり、運営サイドが事前に測った距離よりも、到着時に5km以上少なかった場合、車による運搬とみなされ失格になると言うことだ。  まあ5kmなら、少し車に乗って休むくらいはできそうではある。  実際インターとかでは乗り込まなければならない場面もありそうだし、それを鑑みての5kmなのだろう。  高速道路などではちょっとの間だ。  3人の格好はというと、見た目Tシャツにデニムパンツだが、Tシャツの下にはてつやは競輪用のウエアを着込んだ上にスピードを出すため防護のためのプロテクターをつけ、まっさんと銀次はTシャツの下に同じく競輪用のウエアを着ていた。  Tシャツの袖から、長袖のウエアが見えている。全員お揃いの蛍光グリーンだ。  デニムパンツは一見暑そうではあるが、意外と生地が丈夫なので万が一を考えて毎回着用している。  ヘルメットをかぶる手前、整髪料は使用しておらず、特に銀次はいつものワックスで後ろになでつけてある前髪とサイドがふわふわと揺れていた。 「てつや(おまえ)もだいぶ伸びたな」  まっさんがてつやのプリン頭の髪をくしゃっと混ぜ返し、 「最近少し小綺麗になってきたと思ってたけどな。この髪はな…」 「ちゃんと結ぶからへーき。また後で考えるよ」  と手を軽く外して頭を振って髪をバサバサと振り上げた。これで元通りになるらしい。 「そういえば今日は芸能人がなんか祭りやってるって聞いたけど…」  と銀次が周りを見渡すと、キャッキャした女子や、バンダナを巻いて好みのアイドルのTシャツを着た男子が溢れている。 「アイドルかなんかのアレなのかもな」  てつやがまっさんの様子を伺いながらそう言う。  「ま…まあ…、格好はその辺の男どもと俺ら変わらねえよな…ヘルメットを持っている以外」  まっさんが雰囲気に押されている。 「もう少しでここ出られるからな、落ち着けまっさん」  肩を抑えてゆっくり話しかける銀次に、 「え?大丈夫だよ?僕は何も問題ない」  ああ、話し方が既におかしい!  実はまっさんの父親。地下アイドルに傾倒して家を出ているのだ。まっさん()の意外な真実!  それ以来まっさんは『アイドル』とか『アイドルオタク』と言うキーワード、そしてそう言う集まりに拒否反応が出るのである。 「俺昨日、芸能人のイベントって言ってたから気にしてなかったんだけど、まさかアイドルの催し物とはな…」  てつやもどうしていいか…と困惑気味。 「取り敢えず、A2の方向へ行っておこう。端っこならあまり人いないし」  A2というのは、打ち合わせの外苑西道路に一番近い出口だ。  2人はまっさんの背中を押して、敷地の北西を目指してインラインを転がした。こう言う時まっさんが歩かなくても運べるから便利だなと思う。   「後 3分くらいか。まっさん正気に戻れ?」  背中をドンっと多少強めに叩くと、 「うん…大丈夫だ…いや、囲まれると流石に、怒りとか小5(あの時)の感情がうわってくるんだな。うん、2度と近寄らん…」  まっさんの脳裏に、父親が消えた後の母親の頑張りが浮かんできたが、なんとか戻ってくれた。 「もうすぐスターター鳴るから、そしたら出られるよ。始まるからお互いしっかりいこう」  ヘルメットをつけながら、てつやがまっさんの顔を覗き込む。 「悪かった、もう平気だ。今年も掻っ攫おうぜ」  全員ヘルメットを装着し、全員で 「おうっ」  と声を合わせたその瞬間、各場所でスターターが鳴った。  ロード開始である。 「まっさん先言っとけ」  背中を推して外の道路へ送り出す。出てすぐ丁字路になっている場所があって、向かっていく先はどんつきだ。その「一」の道路が青になった瞬間だった。その先左が料金所。  まっさんは交差点内に車がないことを確認して、大きく右折しようと走り出す。 それに他のチームも何人かが続いたが、ものすごくいいタイミングでセレナが後ろのドアを開放したまま同じ方向へ走り抜けようとしていた。 「まっさん!乗って!」  まだスピードも乗り切らない交差点の真ん中で、まっさんは文治の運転するセレナのアシスタントグリップを握り込み飛び乗り成功。料金所を抜けるまで、中にいる作戦らしかった。  てつやと銀次も続き右折しようと飛び出すが、丁字路には車が走り出してしまいクラクションの中そこをすり抜け、右に曲がりながら目の端で確認をとっていた京介のサニトラが傍に来るまで料金所を目指して車の流れに乗って走りだす。 「わりぃ秒遅れた、掴まれ」 スピードは緩めずに脇をすり抜けてゆく京介の車に掴まり、順次荷台に乗り込んだ。  まっさん、銀次、てつやの3人は、小4の頃からインラインを始めているので、シューズはもう足の一部として機能している。  下手したら参加者の中でもインライン歴は1.2を争うのではないかという巧者だ。  さて、大会もこれで高速に乗れば、本格開始だ。  このゲームの走行について説明をもう一度。  目的地まで車で行っちゃってもバレないだろう、と言う手段は使えないことになっている。  先にも記した通り、各インラインスケートにロード運営から支給される『オドメーター』がついていて、先ほど通達された誤差−5kmという厳しい条件で走行距離を測っているからだ。  オドメーターは、大会に出場してからずっとカウントし続けているので、先程申請した数値はこれまでのほぼ走行距離と言っていい。  もちろん練習などもするので全てではないが、そのオドメーターの数値は自分たちの歴史でもあった。  そして何より、このゲームは優勝を狙うのもそうだが、順位は気にせずに高速道路を自由に走れると言うのを楽しむ者達もいて、可愛い女の子が3人1列で「わーい」と楽しそうに走る姿なども見受けられるのだ。  車に乗っている場合ではない。楽しまなくては。  料金所をすぎて、まっさんはすぐに降り立ち 「少し離れておきたいから、しばらく引っ張ってってくれな」 「了解ですー」   窓を開けて高速を走ると言うのは文治も初めての経験で、髪を逆立てながら懸命にハンドルを握っている。  まっさんはセレナに掴まり、高速になってゆく車でだいぶ先まで走っていった。  てつやと銀次は、料金所すぎてまだスピードが乗らないうちに飛び降り、 「しばらく自走する。10kmは行くから先行っててくれ」  京介にそう言って、2人は自走を始めた。 「了解、気をつけろよ」 「あいよー」  慣れたものの京介は、いつもセンターパーツで分けている前髪が、風でうるさくないように、細いバネ状の櫛でオールバックに留めて、風対策にサングラスを装着している。服装も、走りはしないがチーム統一しようと言うことで、蛍光グリーンの競輪用ウエアに、やはりTシャツを着ていた。文治も同じ格好である。  生声が届いてないほどのスピードで走り去る京介のサニトラをみて、 「あいつ早いな、寝るのも車も」 「確かに」  銀次も笑ってーさ、お前は先に行けーとてつやを押し出した。 「おう、ケツは任せたぜ」  しんがりという意味で使ったが、今大会においてケツはダメだろーと銀次が笑い、こだわんな!とてつやが怒鳴って去っていく。   自走の力は誰にも負けないてつやは、ヘルメットのバイザーを下げ前を走っているローラーを発見すると追い抜きざまに 「お先です〜」  と声をかけたが、ふと気づいて並走し始める。 「お前、ジムの風呂にいた まっぱマンじゃね?」  てっちゃん、お風呂はみんなまっぱだよ。 「は?お前誰だよ」 「俺よおれ」  バイザーをあげてご挨拶。 「お風呂ではタオル巻きましょうね。じゃ」  と、バイザーを再び下げてスピードを上げてゆく。 「あーーー!」  なんて言う叫び声が聞こえたが、なんかちょっとスッキリして、後で文ちゃんにあいつ追い抜いておいたーと話してあげよう♪などと考える。  追越車線を走っていたが、通常車線に移ろうと間合いを測って車の間をすり抜けながら走っていると、 「今日大会の日だったんすねー」  と声がかかった。  車に乗ってる人も、この大会のファンらしい 「そうなんすよー、おれ以外妨害しちゃってください〜」  などと抜いてゆく車に冗談を言って 「がんばってくださーーい」  の声に拳をあげて答えた。 「京介だけど、てつや」  京介から通信が入り、 「へい」 「お前の前にもう1人いるな。まっさん以外に」 「あれ、そうなんだ。まだ目視できないな」 「GPSだから距離感掴めないんだけど、まっさんとお前のちょうど真ん中辺り」 「まあ、まだ始まったばかりだし、後続もきてるからおいおいな」  自走で走っているが、てつやは楽しそうだ。 「おいおいてつや、後が迫ってきてるぞ。悠長に走ってんじゃねえ」  銀次から通信が入り後ろを見ると、車に掴まったセーラー服を着たおっさんが迫ってきている。  この人は楽しみに来ているのか、それともその格好で純粋に優勝を狙ってきているのかがわからないコスプレだ。 「うぅわ、すげえ」  笑いが込み上げて、どうしようもない。 「そのおっさんセーラームーンだよな。髪型から言って」  銀次が後ろから冷静に指摘してくるから。 「セーラームーン!」  恐々と振り向くと、ツインテールの金髪がもう10mにまで迫ってる。 「やべっ」  蹴るスピードを上げるが、向こうは車に捕まっている。そうそう逃げられるものでもない。  しかも笑っちゃって足に力が入らない。 「は〜いボーイ、お先にごめんなさ〜い。あたし追い抜いたら、月に代わってお仕置きしちゃうわよ」  野太い声でそう言って、てつやを抜きざまに尻をペロンと撫でていった。 「ケツ!ケツ撫でられた!セーラームーンに!」  通信で聞いてる方は何が何やらだ。  銀次はヒャッヒャと笑い、まっさんは何を勘違いしたのか 「女にケツ触られたくらいで騒ぐなよ、耳が痛えぞ」 「まっさん聞いてなかったのか?おっさんのセーラームーンだぞ」  京介が言うと、まっさんからは結構冷たい返事が返ってきた。 「今更じゃね?ここでもおっさんかよ」  その返答にてつや以外が大爆笑 「違いねえ〜〜」 「なんだよお前ら!おっさんホイホイいうな!あのセーラームーンは許さねえ。尻触り返してやる」  こんな時のために駒爺のグローブがある(違うと思う)  グローブをスイッチオンして、自走とともに走ると30mほど離れていたセーラームーンにすぐに追いついてしまった。 「やっぱ早いなこれ…」  そして、未だ車につかまっているセーラームーンに近づき 「お姉さん、のパンツは、何色ですかーー」  と、言いながらスカートめくりを敢行。 「いや〜〜ん」  お姉さんは咄嗟にスカートを押さえるために車から手を離し、内股でスピードを急速に落としていった。 「ヒーーッ何やってんだよおまっちょっとあぶね」  京介が笑っちゃって運転危なくなってる。 「いや〜ん聞こえた?」 「耳に残った…」  まっさんの嫌な声が聞こえてきた。 「てっちゃん!お尻触るんじゃなかったの?」  文ちゃんが的確な指摘 「お前おっさんのケツ触れる?おれは直前でやっぱダメだったわ」 「うっ…触れない…」 「だろ?」 「で、セーラームーンはどうしたんだ?銀次確認できたか?」  京介興味津々。 「ああ…まあな…」 「なに、歯切れ悪いな」 「ん〜…女の子座りして泣いてた…」 「うわ、てつや極悪だな。ププッ」 「てっちゃんさいてー!くくっ」 「ちょっと待てよ、え?おれ?…」  まだまだ余裕のある前半戦であることです。 「そろそろ代々木インター来るから降りるなよ。そこ過ぎたら右にでっかくカーブしてる。カーブしながら左に寄れ。その先右に行っちまうととんでもないからな。」 「うい〜」  先行しているまっさんからの注意喚起。全員の返事が終わる間に代々木インターを通り過ぎ、言われた通りの右カーブがやってきた。結構遠心力かかるから、ここは自走じゃないと危ない。 「あ!」  急に文治が声をあげた 「まっさんとてっちゃんの間の人発見しました。黒いです」 「?????」 「黒いってなんだよ文治」  最後尾の銀次が、?を払拭して聞いてきた。 「だって黒いんだもん。多分コスプレかな?」 「今日コスプレイヤー多いのかな。まあ楽しんでいて結構なんだけど」  俺も目視してえわそれ、と銀次が黒い人に興味をそそられている。 「ピッチピチの黒い服着て、筋肉もりっもり!」 「またおっさんか!」  てつやは嫌そう 「なあ、そのピッチピチはマスクかなんかしてるか?」  京介が何かを思いついたようだ 「あ、うんしてるよ。鼻から上のマスク…?」 「それって、バットマンじゃね?」 「バットマン!見てえ見てえ!」  銀ちゃんがいろめき立つ。 「銀次映画好きだもんな。じゃおれがてつやと銀次拾うわ」  京介は急に80kmまで減速して、後ろの車にクラクション鳴らされたが、すんませんと手で拝んでそのまま走行。3分もすれば2人が追いつくはずなのだ。  てつやは銀次を待ってグローブのスイッチを入れ、ベルトに捕まらせてひっぱってゆく。 「お前どんだけバットマン好きなんよ」 「初恋はバットマンだ」 「「「はあ?」」」  この声は全員からの声。 「いやいやいや、勘違いすんなよ。憧れって意味だぞ」 「憧れを初恋とは間違えないよな、普通…」 「銀次…おれのベルト持つのやめてくれない?こわい…」  その手の話はちょっと敏感なてっちゃん。 「離さねえぞ!バットマン見るんだ!」 「京介早く来て」 「行けねえよ。お前が早く足で漕げ!」  てっちゃんシャカリキに漕いで、執念で京介の車発見。 「銀次、あれにつかまってバットマン見てこい。ついでに告ってきてもいいぞ」 「ばっっかじゃね!」 『しねーよ』とは言わないんだ…みんなの心境だった。 「じゃあちょっとてつや、しんがり頼むな」 「おけー」  スイッチを切って、悠々と自走で走る。  後ろを見ると、同じ速度で走っているようなので抜かれることはなさそうだ。  追越車線を見てみたら、常連の三つ子の女子がいた。  てつやは寄っていって声をかける。 「よ、久しぶり」  なな「誰?」 「てつやだよ」  バイザーをあげて顔を見せる。  みみ「ほんとだ、てつやだ。久しぶり〜」 「引っ張ってってやろうか?少しだけ」  りり「いらない。でも今日は、てつやのケツ守るため、あたしたちが優勝してあげるから」 「ケツて…あんたらにまで浸透してんの?その話」 なな「超有名な話」  そこへ車がやってきて、てつやの傍で並走するジープ。 「うちの娘達にナンパたぁ度胸がある…あれ、てつやか?」 「あれ、花森さん。ちゃっす。今日は車サポなんすね」 「娘っ子達が、てつやが可哀想。私たちが優勝しててつやのケツ守るっていってきかないもんだからな」  おれの知らないご家庭内で、俺のケツ心配されてたんだ…  「甘々っすね、花森さん」  てっちゃん少々ぐったり。 「そりゃそうだろ。娘の言うこと聞いときゃ、親父はそれでいいんだからよ」  そういうものか… 「じゃ、なな、みみ、りり車につかまりなさい」 「「「はーい」」」  親父には素直だな…目の前でジープにつかまって 「じゃあ、てっちゃん」 「じゃあね、てつや」 「ごゆっくり、てつや」  三様の挨拶をされ、バイバーイと見送ったてつやだが 『バイバーイじゃねえだろ、とっとと追え!抜かれてんじゃねーか。堂々と!」  まっさんが声の実況だけで推察して怒ってきた。  はっと気づいて、ほんとうだ!と自走を早めるが、やはり車にはちょっと勝てない。仕方なくグローブのスイッチを入れることにした。  大体3.4位の辺りでずうっと推移して、ゴール何キロかで追い抜きをかけるのがいつものパターンだが、今回まとめて3人では多すぎる。真ん中にバットマンもいるし、後から抜かれる可能性だってある。 「だめだ、その辺の車にお願いしよう」  追越車線の端を走っているてつやは、後方からルーフキャリーを積んだ車を発見。その台座につかまらせてもらい、運転席へつかまっていいか確認をとった。  車の主は風も入るだろうに、窓を半分ほど開けてくれて 「今日ロードあるって知らなかったっす。どうぞつかまってください」 「ありがとー。あのジープ抜きたいからさ、少しだけ頼みます」  てつやの身長だから掴まれる場所。 「これのYouTube、録画ですけど毎回見てるっすよ」 「ほんとうっすか、ありがたい!皆さんがいるんで成り立ってます」  今度もまた、大会のファンの人のようだった。本当ありがたい。 「今日のゴールどこすか?」 「河口湖だよ、見られたらゴールも見てみるといいよ。面白いから」 「寄れなくはないんで、寝てる彼女がいいって言ったら行きますよ」 「是非。じゃ、追いついてくれてありがとう。俺行くっすね。彼女と仲良く」  てつやは車から離れ、少々自走して花森のジープに手をかけた。 みみ「てつやだ!こら〜掴まるなー」 「よかった追いついた。そんなに長くつかまっちゃいないよ」  なんせ左前方に京介のサニトラが見えているから。  しかしそのサニトラの運転席に掴まって、銀次が何か話している。声が聞こえないところを見ると回線切ってるな。何かオフレコの話か…  〜5分ほど前〜 「お、戻ってきたな」  京介は銀次が運転席側のアシストグリップに捕まり、黙って回線を切れと指で指示してきた。 「なに…」  とは思ったが、京介は言う通りに回線を切る 「どうした?」 「確証はないし、確かめようもなくて多分としか言いようがないんだけどさ」 「うんうん」 「あのバットマン…文治の親父かも…」  思いもよらない名称を聞いて、瞬時に頭を巡らせる… 「はあ?なんで?まじで?」 「いやだから、多分の域は出ないんだけどなん〜〜かそれくさくてさ」  銀次が言うのに、京介は理由を尋ねる 「この間さ、商店街の使用許可もらいにいったとき、割とまじまじ顔がみられたんだよ。確か右顎に黒子があってさ、その時ポロ来てたから首にも同じ大きさのほくろがあったのよっく覚えてるんだよな」 「それがあったってことか?」  銀次がバットマンに近づき、コスプレの出来や、自分がバットマンが好きで今のコスチュームは最高ですね!とか話ても、向こうは親指を立てて笑ったり、胸を叩いて『任せなさい』のジェスチャーをするだけでひと言も話さなかったそう。 「首のほくろは見えなかったんだけど、顎にはちゃんとあったし、しかも一言も喋らねえ。俺が声知ってるからかもしれないとか思うと、疑わしさ90%でさ」 「ん〜〜〜〜」  京介もそれだけでは決めつけられないしな…と考え込む 「同じレースに参加したって悪さできるわけでもないしな」  文父=即悪さの方程式は、仲間内では当たり前になってしまっている。  悪さっていうよりかは…てつやへの一途な恋心なのではあるのだろうが…。 「そうなんだよな。意図がわかんねんだよ」  と、銀次。 「でも、確かにてつやの近くにはいるよな。最初から」 「どうする、みんなに言っておくか」 「いや、文治もいるしまだ確定じゃないからしばらく様子を見よう。いよいよとなったら、俺がまっさんとこへ走ってくわ」  京介は、この話を聞いて動揺する文治が可哀想で、まずはここだけにすることにした。 「わかった。じゃ俺戻るな」 「てつやにも|気取《けど》られるなよ」  親指を立てて、銀次は下がっていった。  本当だとしたらめっちゃ腹立たしいことだ。京介はイライラして爪を噛んだ。

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