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第1話

彼はいつも閉店の1時間前にやってくる。 「店長、また来ましたよ」 「あー、あの人ね」 最低でも週に3回、彼はこの郊外のスーパーに、長袖のパーカーにダボダボのスウェットでやってきては店内を徘徊し、割引シールの貼られた菓子パンや洋菓子を全てカゴに入れていく。その買い物の量は到底成人男性1人で食べ切れる量ではない。例えばあの量を肥えた人や大家族が買うのであれば理解はできるが、彼はかなり細身で、1人で食べますなんて言われても信じることは難しい。もしかしたら、最近流行りの大食い系の動画配信者かもしれないなんて思っていた時期もあったが、深く被ったフードの中をよく見れば、唾液腺は腫れているし、むくみも酷い。明らかに摂食障害だと、無駄に通ってしまった医大と命を削った研修医時代の知識が教えてくれる。 「破棄減って助かるけど、なんか気味悪くないですか?店長声かけてきてくださいよ」 最近20になったばかりのバイトの大学生の女の子が、まるで朝の占いが最下位だったかのような声色で悪態をつく。 「大丈夫だよ、そんなことしなくても。害ないし」 下手に声をかけて暴れ出されたら流石に警察沙汰。 今彼がここで取り乱してしまえば、店長という立場上通報しなければならない。そうすれば彼は強制的に入院になるだろう。 今こちらから刺激する必要は全くないし、しないに越したことはない。 「実はこの間帰り道で見かけたんですよ」 次は怖い話でも始めるのか。 全くおしゃべりが止まらないな。 「何を見たの?」 生憎幽霊の類は信じないが、話に付き合ってみる。 「あの人ですよ、道端に座り込んで泣きながらケーキ手掴みで食べてて、流石に怖くて」 あぁ、いやだな 「風原さん」 「はい?」 「次その現場見たら連絡ちょうだい」 「いいですけど…何するつもりです?」 「うーん、お節介」 何で関わりたがるんだろう

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