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第5話

「お兄さんだったんだね」 けいくんの横たわるベッドの淵に腰を下ろし、あえて視線は向けずにそう話しかける。 「近くにいるから迎えに来るって」 『迎えに来る』そう伝えた時、けいくんの体が強張った気がした。 「……いつもあのスーパーに居るからさ、いつでも頼ってほしいな、とか思ってるんだけど」 今日で関係を終わらせればいいものを、なぜあえて自ら関わろうとするのか、自分でも理解できない。断ってほしい、断られたくない反する気持ちが胸の奥で渦巻く。 「迷惑だよなー、忘れて」 けいくんはなんの反応もしてくれなかった。 アパートの外の駐車場に一台車が入ってきた。迎えが来たのだと、外に出てお兄さん、いや蘆名歓を迎える。 「こんばんは」 こちらから挨拶すると、蘆名歓は申し訳なさそうな表情をして軽く頭を下げた。まるで"申し訳ない表情"という仮面をつけたような顔に気味の悪さを感じる。 「ご迷惑をおかけし、申し訳ありません」 人気俳優 初めて生で見たが、俳優というものは皆、こう鳥肌が立つ様な気持ち悪さを持つのだろうか。 顔が整っている、高身長、身なりが整っている、1番に感じるものは他にあっただろうに、彼からは1番に得体の知れない気味の悪さを感じる。 「いえ」 「慶はどこに?」 「あぁ、まだ部屋に。こっちです」 彼の前を歩き、部屋まで誘導する。 「ここです、中にどうぞ」 「失礼します」 彼は靴を脱ぎ、丁寧に揃えて部屋に足を踏み入れる。 「慶、帰るよ」 彼はけいくんを、まるで幼少期から共に過ごした、大きいぬいぐるみでも扱う様に慈悲の表情の仮面をつけて抱き上げた。 「お礼は後日させていただきます。それでは」 彼はそれだけを言い残し、車にけいくんを乗せて車を出した。 1人になった部屋で、ベッドの淵に座り、両手で顔を覆い深いため息を吐いた。 「どうしよう」 あの兄、問題しかない。

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