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30:親愛なるケイン(4)

◇◆◇  ひゅん、パシッ!ひゅん、パシッ! 「っう!……っぃ゛!あ゛ぁっ」  とうとう、俺の本来の任である「鞭打ち」が開始された。元々、俺と王太子の仲が深まるであろうひと月を目処に鞭打ちが開始される事は、事前に知らされていたので分かっていた。ただ、分かっていたとしても振るわれる鞭の痛みは、俺の予想していたモノより、激しく、そして熱かった。  ひゅん、パシッ! 「っう゛ぁっ!」  クヌート家がこれからも躍進を遂げる為とは言え、最初はなかなか耐え難かった。なにせ、父からは「わざと大仰に痛がってみせろ」と言われていたが、そんな事をしなくとも、本気で痛いのだ。  ひゅん、パシッ! 「っぁあ゛ぁっ!」  しかも、ラティの出来は本当に悪く、毎日のように鞭が振るわれるせいで、俺の肌には治る事のないミミズ腫れが、体の至る所に張り巡らされていた。治り切る前の肌に、更に鞭が振るわれる。拷問としか言いようが無かった。  しかし、だ。 「ァぁぁ~~っ……ごめんなしゃ。っごめぇん……けい、ん」  鞭のしなる音の隙間を縫うように聞こえてくるラティの泣き声を聞いていると、不思議な事に痛みを鈍く感じた。まるで麻酔だ。  それどころか、悲痛なラティの泣き声は、それだけで俺の体を腹の底から熱くさせるから不思議だ。それは、傷の持つ熱と相成って、更に俺を興奮させた。 「ァぁぁ~~っ…あぁぁぁんっ!」  ラティはまるで自分が鞭に打たれているような顔で俺を見る。泣き叫ぶ。こんなにも全身全霊で俺の為に泣くヤツが、他に居るだろうか。 「ケイン、ごめん。ごめんねぇ」  夜、ウィップを読む為に俺が部屋へと向かうと、ラティが泣きはらした目で駆け寄ってくる。きっと、部屋に戻った後も、俺の事を思って泣いたのだろう。その顔からハッキリと分かった。  でも「泣いたのか?」と尋ねても、ラティは決まって「泣いてない」と首を振る。そうやって俺の前で強がって見せる姿も、また格別だった。 「こんなに、赤くなって……いたい?」 「痛いに決まってるだろ?昨日の傷も治ってないのに、ラティのせいでまた同じ所にムチが当たったんだ。見ろよ。皮膚がえぐれて……血が出てるだろ?」 「っひ」  俺服を捲り上げ、抉れた傷口をラティに見せつければ、その口から小さな悲鳴があがった。  本当は「大丈夫だ。気にするな」と言ってニッコリと微笑み、ラティに優しく恩を売るべきなのだろう。そうすれば、きっとラティは「ケイン、ありがとう。大好き」と、あの無垢な笑顔を向けてくるに違いない。  まぁ。それも、確かに悪くない。けど――。 「げい、ん……ごめぇ。ごめんねぇっ……っふぇええ!」  けれど、どうも俺はそれよりもラティの泣き顔の方が好きだった。俺の為に、この世の終わりのように泣き喚くその姿が、いつ見ても俺の体を熱くする。 「あーぁ、痛い痛い……もうサイアク」 「っひ、けいん……ごめん。ぼぐのぜいでぇ。っひ、っひぐ」  幼い頃から、一族の繁栄の為だけに生きるよう厳しく育てられてきた俺にとって、それは……たまらなく甘美だった。しかし、俺のラティへの嗜虐心は更に留まる所を知らなかった。 「なぁ、ラティ。体中痛いんだよ。だからさ、」 「ぁ」  薄緑色の瞳が涙と共に零れ落ちてきそうな程に見開かれる。ラティの目には、俺しか映っていない。 「舐めろよ」 「うんっ」  頷くや否や、ラティはソファに腰かける俺に対し、床に跪くような体勢で、俺の下腹部の傷に躊躇いなく舌を這わせる。まるで、主従が逆転したような体勢に、俺は更に興奮した。

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