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そして俺は
俺は、今、バイトをしている。建設現場で汗水垂らして資材を運んでいる。人生、イージーモードの俺が、まさか、こんな重労働をすることになるとは、思いもよらなかった。俺が、何かのために、こんなに真剣になったのは初めてだ。この炎天下の重労働に比べたら、受験勉強なんて、屁だったな。
休憩時間、ヘルメットをかぶって首にタオルを巻いた日に焼けた顔のおっちゃんに、
「頑張ってるな」
と声をかけられた。
俺は、額の汗をタオルでぬぐいながら、
「友達に会いに行きたいから」
と答える。
「へえ、遠くにいるのか」
おっちゃんは聞く。
「留学してるんです。海外に」
俺は答える。
「友達なんていって、恋人だろ?」
と、おっちゃんは、俺の顔をのぞきこんで、からかうように言った。
「いえ……」
俺は、口ごもり、どぎまぎした。
「この色男が」
おっちゃんは、俺の背中をどついて立ち上がった。
「痛っ」
白いTシャツを通して日に焼けた、背中が痛かった。
「おい」
振り向いた俺の頬に、おっちゃんは、ひやっとする缶コーヒーの缶をくっつけた。
「引っかかった」
おっちゃんは笑った。
「まあ、頑張れよ」
日に焼けてほてった俺の頬に缶コーヒーがひんやりと心地よかった。
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