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気遣いかな…

 ロードの大会が終わって1ヶ月。  あれから大した進展も見せないてつやと京介だったが、大抵の土日はどちらかの部屋にいるというのがなんとなく決まりになっていた。  平日の空いてる日は、文ちゃんがてつやを独占しているので夜しかなく、京介は残業も多くなかなか寄れないからとまあそんな日々を過ごしていた。  そして本日の土曜日。  なんとなく2人でキスなんかしていると(←)部屋のドアをコンコンと叩かれた。 「誰だろ…」  てつやが玄関に行ってみると、つなぎを着たお兄さんが 「加瀬さんのお宅で間違いないですか?」  と。 「はあ、なんでしょ」 「納品にあがりました」  あれ?なんか買ったっけ?としばし考え 「なんの納品ですかね」 「車ですよ?」  つなぎのお兄さんも、なんで?みたいに首を傾げて聞き返す感じ。 「は?車?」  車なんて買ったこと忘れないよな…てか買ってないし… 「え…俺車なんて買ってないすけど…」 「でもこのご住所で間違えないですよね?」  とお兄さんは、手にしたボードの書類を見せてくれ、それをみると間違いなく自分の住所と名前だ。 「どうした?」  京介が後ろから顔を出してきて、様子を伺いにきた。 「俺が車を買ったらしいんだけど、覚えがないんだ」 「何言ってんのお前」  まあ普通はそうなる。 「名義はどうなってるんですか?」  京介が聞くと、加瀬様です。という。 「ん〜〜〜あ、じゃあ、購入者は?」  と聞くと 「横山孝和様ですね〜」  その瞬間てつやはしゃがみこみ、京介はめんどくさそうな顔をして頭を掻いた。 「えっと…引き取っていただくわけには…」  一応聞いてみるが、 「あーこれは、特別色をご指定いただいているので、返品できないんですよ〜」  やってくれたよ… 「あ〜…ええと…どうしようかな…わかりまし…た。取り敢えず置いて行ってください」 「わかりました、じゃあちょっとご確認を」  と促され、外に行かねばならなくなったが 「行くか?」  とてつやに聞いても 「力が入らねえ…」  というだけなので、代わりに京介がクロックスを引っ掛けて出向いた。  アパートの前に白のピッカピカのセレナ。 「ブリリアントホワイトパールという特別色です。古い車はどうしますか?」 「今初めて聞いたので、なんの準備もしてないんすよね。またそちらに連絡したら、古いの回収に来てもらえるんですか」 「はい、大丈夫ですよ、伺います」 「じゃあそれで」 「わっかりましたー。ではこれ車検証と車の説明書です。中に自分の名刺ありますので、回収の時に連絡ください」  京介はわかりました、と一応受け取って、名刺を確認。 「じゃあその時に…」  と戻ろうとした時 「あ、言い忘れていました。100万円分のカスタマイズも、もう代済みで承ってますので、決まりました時もご連絡ください」  今度は京介がしゃがみ込みたくなるような内容。 「何から何まであの親父は…」 「じゃ、私はこれで」  と、つなぎのお兄さんは、後ろにあった同じ店の人が待機していた車に乗り込んで帰って行った。  車検証を見ながら、鉄の階段を登って部屋に戻ると、てつやはまだその場にしゃがみ込んでいた。 「ほれ、中いけ」  Tシャツの肩をちょいちょいと引っ張って立てようとするが、 「はぁ…なんでこういう…」  めんどうなことを…と後に続けたいのはよくわかった。 「気持ちはよ〜〜くわかるが、取り敢えず中行こうぜ」  と腕をもって立ち上げ、居間へ連れてゆく。  窓から下を見て、 「わあ、綺麗な色だねぴっかぴかだぁ」 「棒になってんぞ」  と京介は車検証をテーブルに置き、 「さて、どうするよ」  てつやも窓から離れ、テーブルにある車検証の前に座り中をぱらぱら。 「どうするってもなぁ…俺次は違うの買おうとしてたんだけどな…」  いやそこじゃないだろ、ともおもうが、まあ割と重要。 「何買うつもりだった?」 「ヴェルファイア…」  京介の顔が苦虫を噛み潰したような顔になる。 「今時ヤンキーあがりかヤクザしか乗らねえぞあんなん」 「そうかなぁ、俺あの顔が好きなんだよな」  似たようなアルファードに危ない目にあったくせに…とは思ってみたが言うのはやめておいた。 「返しに行ったほうがいいのかな…それかまあヴェルファイアしばらく諦めて、金だけ返しに行くべきかな…」  それはてつや次第だよなあ…と頬杖ついて京介は背中を叩いてやる。 「取り敢えずさ、話し合おう」  まずはまっさんに相談だ! 『はい、俺〜、どうした?』 「仕事中悪いな、相談があるんだけど、今日来られるか?」 『なんだよ〜。またなんかやらかしたんか?』  後でゴムを締めるキュッキュッと言う音がする。 「ちげーわ。文父だよやらかしたのは」 『は?なになに?何が起こった?』  てつやは今起こったことを話して聞かせた。 「はあ、車か〜。随分思い切ったことするなバットマン」  あれからバットマンとよぶのが癖になったまっさん。 『大方、元々金持ちだから賞金300万持て余したんじゃねえの?文治がセレナボコボコにしたの気にしてたから、それのお返しって感じかねえ』 「いや〜だからって車送りつけてくるとかあり得ねえ…」  てつやは頭を抱える勢いだ。 『どれ、見に行ってみるかな、新車』  一仕事終わったらしいまっさんが、よっこいしょと言いながら立ち上がり、 『今から行くぜ』  と言ってきた。 「おー。待ってるわ」  スマホを切って、大きいため息。 「金よこすって言われたんなら断れるのになぁ…」  そう言うてつやの横で、京介は車検証を見ながら眉を寄せていた。 「何怖い顔してんだよ」  車検証を横から覗き込んで、京介の顔と交互に見る。 「この車…今年発売のバリバリのニューモデルだ…」  京介の会社の同僚が、家族で乗るのに車見繕っていた時に、ちょっと高いんだけどさーと見ていた車だった。 「ああ、そう言えばセレナe-POWERのルキシオンだっけか?」 「そうそれ、それがこれ」  車検証を掲げてまた困ったぞ的な顔の京介。 「は?あれって500万弱くらいするぞ?そんなわけない…」  車検証の車の正式名称を見せられて動きを止めるてつや 「無理ーーー」  床に倒れてバタバタ始める。 「ヴェルファイアはもっとすると思えばさあ」  このくらいしか慰めの言葉がない。 「勝手に送られてきたものに500万払うのと、自分が好きで買うものに 700万はちがうだろ〜〜〜!」  もう身を捩ってバタバタ始めて、あたりどころがない幼児のようだ。でかいのでそろそろやめてほしい。 「よっす〜」  自転車で来たのか、まっさんが入ってきた 「なんだなんだなんだ?でっかい赤ん坊か?見苦しいぞ」 「俺の気持ち解れよ!この態度で!」  京介と目を合わせて肩をすくめる。まあてつやの言い分もわかるけど。 「今見てきたぞ車。中々だな」 「今年発売のルキシオンっていうやつらしい。500万で数千円のお釣りってやつよ」  京介が車検証を見せて説明をする。 「はああ?賞金で買ったんじゃねえのかよ」 「だいぶ足が出てるな。しかも100万分のカスタマイズ代までもう支払い済みだとか…あり得ねえよな」  駄々っ子は静かにはなったが、まさか指しゃぶってないよな…くらい放心している。 「どうすりゃいい?まっさん」  そんな態勢で、てつやがぼそっと言ってくる。 「難しいよなぁ…まあ車返せたら一番いいんだけどさあ…」 「特別色らしくて、ディーラーは引き取り無理みてえだぞ」 「はあ、やってくれんね」  同じこと思うよね 「じゃあ、この間の賞金さ、俺らに分配してくれたけどあれで俺らの車として買うか?それもありだぞ?」 「ああ、まあそれもいいかもなぁ」  京介は結構賛成方向。しかし… 「そんなん、俺らが買う予定でもなかったものをさあ!押し付けられてせっかく分けた賞金不意にするのも癪に触る!」  てつやはもう何言っても癪に障るだろう。 「少し落ち着くのを待つか…」  まっさんはそう言って、車見てこようぜと京介と外へ出て行った。

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