夜になって横山氏は1人飲みに出かけた。 　新市街にある割には渋い感じの、客層もお年寄りが多いバーというよりは酒場。 「お、孝ちゃん久しぶりだね〜」 　馴染みの客なのか、カウンターで飲んでいたじいちゃんが横山氏に話しかけてきた。 「元気がないようじゃのう、どうしたんじゃ？」 　爺さんはカウンターの中の女将さんに、グラスを一個頼んで、自分の瓶ビールを横山氏に注いであげた。 「駒ちゃん…とうとう失恋しちゃったよ…」 　グスッと鼻を啜って、涙なんかを堪えている。 「失恋？てつやにか？」 「うん、てつやくん…相手ができたみたいだ…」 　グラスのビールを一気に飲み干し、自分でも瓶を注文して手酌で飲み始めた。 「てつやに相手？」 「一緒に遊んでいる仲間の京介くんだよ」 「京介とか！なんと！」 　爺さん、なにやら事情通…っていうかお久しぶりの駒爺じゃん！ 　駒爺と文父、実はこんな所で繋がっていた。バットマンのシューズも本当は駒爺が……なんじゃあ… 「京介くんしっかりしてるし、何よりもてつやくんのことすごく愛してる目をしてた。いいなぁ…ぐしっ」 「おいおい、大の大人が泣くんでない」 　文父は、本当にてつやのことを思っていた。できれば囲いたいとまで思っていたようなのだが… 　しかし大崎の姿を見て、自分も少し考えるところもあったようで、今回のことは…偶然とはいえ良い引き際だとも思っていた。 「仕方ないことだとは思っていたけどね…悲しいもんは悲しいんだよ」 「そうかそうか…お前なりに、紳士的に頑張っておったもんな。泣け。泣いて忘れるんじゃ」 　駒爺は、以前てつやが酔って『キスできたらホテルでもなんでもいってやる』と煽った時に、結果叶わなくても『てつやくんとキスできた』と有頂天でこの店に来たのもよく覚えている。ーてつやも罪作りな男じゃのうー 　シクシクと泣いている横山氏。大声あげて泣けない大人の事情。 　こんな切ない夜と、つけまわされたおっさんから解放された若者の夜。 　対照的な二つの感情が２分(にぶん)された、一つの夜だった。