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対戦っ!
「準備できてるかーそろそろ行くぞ」
まっさんと銀次がやってきて、鍵を開けておいた玄関からいつものごとく入ってくる。
「取り敢えずは襟付きのシャツ着ろ…よ…ん?てつや?」
「あん?なに」
襟付きのシャツはアロハか開襟しか持っていないてつやは、京介の着替え用のカッターシャツを借りて袖のボタンを止めていた。
「なんだってば」
黙って見ているまっさんに笑って問うてつやに、まっさんは今までと違う何かを感じていた。
「銀次…判るか?てつやなんか変じゃね?」
その後ろでYシャツに袖を通しながらドヤ顔をしている京介。
2人は全てを理解した。
とにかくてつやがエロいのだ。いや、エロいと言うのは語弊があるが、なんか今までにない色気?違うな何かが付加されている。
多分、余裕。
まっさんと銀次は京介に近寄り
「仕上げたなぁ。おまえ」
「だろ?」
銀次が
「俺たちにも判るくらいだから、絶対あの親父も気づくぜ。しかし…なんだあの仕上がり」
雰囲気で伝えようと言ったのは銀次であったが、京介は内心それもありだなと考えていて、昨晩仕掛けたのも実は半分これもあったのだ。
『あの親父にはもう、てつやのことを考える余地も与えない』
「俺のだから」
「うはっ惚気まで聞かされんのかよ」
笑って2人は
「じゃあ車行ってるな」
「おう、すぐ行く」
着慣れないシャツとチノパン。
「早く終わらせて帰ってこような」
「だな、きっとすぐ終わる」
京介は仕上げにふっかーいキスをして、てつやを酔わせておいた。
文治の家に行って玄関で迎えられた瞬間に、てつやを見た文父の表情がこわばったのをてつやを除く3人は見逃さなかった。
後ろで3人、ガッツポーズを取っている。
応接室に通されて、一通り挨拶をし、大崎の一件も聞かせてもらった。
大崎は案の定起訴となり猶予もなしの実刑が確定したらしい。その他脱税もあったし手形の不渡りで信用もガタ落ちになり会社経営は無理になったということだ。
「本人的には大変なことになるが、こればかりは仕方のないことだね」
文父はきちんと話してくれた。
そして今度は車のこと。
「横山さん、昨日車が届きました。気を遣っていただきありがとうございました。しかし大変嬉しいのですが、車は辞退させていただきます」
てつやがしっかりとそう告げると、てつやの顔を見られない文父は、テーブルを見たまま
「いや…あれは文治が君の車を傷つけてしまったと気にしていたから、弁償だとおもってだね…」
「それにしては、私に不相応な高級車ですし、そもそも文治君は自分を助けるためにやったことなので私は何も気にしてません。なので弁償もいただくわけにはいきません」
京介は慣れない社交用語を使うてつやが可愛くて、苦笑しながら見守っている。
その愛おしそうな目をしている京介を見て、文父は悟っていた。
てつやが話しにくそうだったので、後半はまっさんが引き取り、理路整然と話をまとめてくれた。銀次は、てつやの件を纏めにきたのだが、雰囲気仕上がっていたてつやのおかげで出番はなかった。お疲れです。
話し合いの結果、車は文父が引き取ることとなり名義も変更すると約束してくれた。
帰る段となり、玄関でお見送りを受けているとき不意に文父が京介の手を取り
「てつやくんを、よろしく頼むよ!」
とガッツリ握ってきた。
つい、はい…とか言いそうになるが京介も一筋縄ではないよね。
「横山さんに言われるまでもなくです。というか、あなたに言われる筋合いもないんですけどね」
と含みのある笑みを残し、てつやの肩をがっしりと抱いて
「それでは」
と頭を下げた。
屋敷をでて駐車場まで歩く間
「言うねえ京介」
まっさんが横に並んできた。
「言うだけは言っておかないとなと思って。2度と俺らの前に顔出せないようにしとかないとだしな」
「まあ近くに住んでるから会っちまうこともあるだろうけど…文治の親父だし。変なことしてこなきゃいいだけだよな」
まっさんの言葉も御尤も。
「なあまっさん」
「んー?」
「百人一首の句でさ『逢見ての〜』って言う上の句の歌があるんだけどさ。最近ふとそれを目にしてたんだけど、俺の今の心境それだってさっき思ったわ」
なんだなんだ?と思いスマホで検索。
まっさんも京介も、理数系の人間なので百人一首とかは知識として知っているのみだ。
「おいおいおいおいおい、惚気もいい加減にしろよな」
京介の背中をバンバンと叩いて、まっさんは笑っていた。
「なになに?」
と銀次が走り寄ってきて、まっさんは
「これが京介の今の気持ちなんだってよ」
とスマホを見せる。
「うわっお前キザ! ううわ」
とか言いながらスマホをじっくり読み耽る銀ちゃん。
「早く来いよ〜帰るべ〜」
キズキズセレナに乗って、てつやがみんなを呼ぶ。
「わかってる、帰ろうな〜」
「晩飯焼肉いこうぜ〜」
銀次が提案
「お前仕事は?」
「休んできた」
「オーナーはいいねえ」
と言うのはほぼ社畜状態の京介。
「じゃあ、飯まで俺の秋物買いつきあえ〜」
てつやの秋物…少しはちゃんとしたものを着せようと思う京介であった。
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