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第1話

 身長含む体格も、多分顔もそこそこ。勉強も運動もそこそこのベータの俺。  つまりは平々凡々。  ────せめて背が低くて、か細かったら佑都に釣り合ったかもしれないのにな。 「なに? じっと見て」  佑都が俺の視線に気づいて問う。  佑都は俺の好きな人。三歳の頃からのお隣さんで、幼馴染で、今は同じ大学の同じ情報額縁。付き合いは十六年に渡るけど、物心ついたころにはもう好きだった。  圧倒的なアルファ感を持つ佑都は、全方位、どこから見てもかっこいい。  つまりは俺の、片思い。  ベータで男の俺がアルファの男を好きになるなんて、世間的にはないわけで。 「自惚れんな。お前の向こうにいるオメガを見てるに決まってんだろ」 「あぁ? どこ? ……あーなるほどな」  形のいい唇の片側が上がる。値踏みするようにその子を見る佑都の横で、俺もしばらくオメガの子の姿を眺めた。    あの子、もろ佑都の好きなタイプ。つやつやの髪に滑らかな白い肌、大きな瞳。オメガ特有の、柔らかそうな肢体。どこか儚げで、守ってやりたくなるような、かわいいオメガ。  どれも俺には無いものばかりだ。  ────俺にはアルファを……佑都を受け入れるうなじも子宮もない。  無意識にうなじに手が伸びた。 「どうした? 首が痛いのか?」  オメガを見ていた佑都の目が俺を見て、骨ばった男らしい手が俺の手に重なる。 「わっ」  ドキッとして、思わず大げさに振り払ってしまった。佑都の顔も驚いている。  「そんな驚くか?」 「……きめーんだよ。俺はオメガじゃねーぞ。うなじとか手とか触られて嬉しいわけないだろ」  そう、俺はオメガじゃない。  でももしも、俺がオメガだったら、喜んで佑都に触れてもらうだろう。  匂いをかいでもらって、それから、うなじを噛んでもらって……(つがい)の印を刻んでもらえるかもしれないのに。  だからさ、俺、滑稽なんだけど、ちょっとでもオメガに近づきたくて、首筋に甘い香りのコロンを付けてる。  なのに今みたいな可愛げのないこと言ってたら、意味ないじゃん。 「ふん、わかってるよ。樹がベータなことくらい。今さら何?」  佑都が鼻で笑う。ついでに、すん、と俺の匂いをかぐ仕草をした。 「色気づきやがって。こんな甘い匂いさせて、どの子にアピールしてんだよ。樹って好きな子のこと、なーんも教えてくれないよな」  つん、と指で首をつつかれる。 「うっせー。お前もそうだろ」 「まーな。べらべら喋るもんでもないしな。それにしてもいい匂いだな。俺も同じのつけようかな」 「真似すんな」  言いながらも、俺はとてもドキドキしている。  佑都に触れられた首筋が熱くて。  本当のフェロモンじゃないけど、コロンでも甘くていい匂いだと感じてくれた。  俺と同じにしたいと、言ってくれた。  どれも佑都にとっては友達同士の些細なこと。  なのに……泣きそう。  好きだ。佑都が好きなんだ。匂いをかいでほしいのは佑都だけだよ。  喉の奥が、そう叫びたがっている。俺は鼻から空気を吸い込んで、今にも出てしまいそうな思いを腹の奥に閉じ込める。  苦しい。切ない。ほんと、もうヤバい。 「家まで競争!」  赤い顔と、涙がちょっと滲んだ目を見られたくなくて、俺は坂を駆け上がる。 「おい、待てよ!」  佑都はすぐに俺を追いかけてくれる。  ちっさいころからそうだった。佑都は人気者なのに、幼馴染だからなのかいつも俺のそばにいてくれて。  俺たち、いつもこうやってじゃれあってきたよな。    なあ、佑都。いつまでこうやってできる?  願わくば、せめてもう少しだけ俺のそばにいてくれ。

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