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第2話
家に着くと、佑都の部屋で課題をしようという話になった。
「お邪魔しまーす。……あれ? おばさんは?」
「今朝から夫婦で町内旅行だろ。樹のところも一緒に行ってんじゃん」
「あ。そっか。夕飯は適当に二人で食いに行けって言ってたっけ」
「そうそう、ラーメンにしようぜ」
「いいね」
他愛もない会話をしながら玄関ドアを閉めたけれど、ガチャンと鍵がかかると心臓がバクバクした。
ベータの俺とアルファの佑都じゃ何も起こり得ないけど、幼馴染になってからこれまで、こんなに完全な二人きりって初めてだ。
さらに部屋に入って扉を閉めれば、いつもの佑都の部屋のはずなのに、密室になったような感覚に陥った。
ドッ、ドッ、ドッ……心臓、破れそう。
悟られるな。俺の動揺。
それからなんとか課題を進めるけれど、佑都がまばたきするたび揺れるまつ毛とか、かき上げた髪の爽やかな匂いとか、いちいち気になって集中できない。
「樹、上の空だな。腹でも減った?」
「ひゃっ」
突然腹をさすられて、変な声が出てしまった。
だって。だって俺、腹より下のところ、すっげー熱くなって、勃っている。
……咄嗟に足を閉じたから、気づかれていないよな?
「なんつー情けない声出すんだよ。よっぽど腹へってんのか。わかった。なんか喰いもん持ってくる」
佑都がすっと立ち上がり、俺に背中を見せた。
────セーフ!
そうだよな。幼馴染の男のベータが今、ここを勃たせてるなんて、思いもしないはずだ。
「はあああー」
佑都の階段を下りる音が小さくなっていくのを聞きながら、気を落ち着かせるために深呼吸をする。
「……あ……これ、余計にまずいかも」
佑都の残り香が、部屋に染みついた佑都の香りが、ベットに軽くたたまれたスウェットパジャマの香りが、俺の粘膜に充満して染み込んでいく。
「たまんない……」
下腹部が疼いて、この香りに顔も身体もうずもれてしまいたくなる。
オメガって番相手の匂いのするものを集めて「巣作り」っていうのをするらしいけど、ベータだって、いやきっと、誰だって。
好きな人の匂いを嗅いだら、その匂いにもっとうずもれたくなるものだと思う。
俺は無意識にベットに上がり、スウェットパジャマを抱えこんで匂いを嗅いだ。
でもそれだけじゃ足りなくて、椅子に掛けてあったパーカーも、バッグからはみ出た洗濯に出す前のテニスサークルジャージも引っ張って、それにくるまれる。
────めちゃくちゃいいにおい。しあわせ……。
頭の芯がとろけていく。
────好きだ、好きだ。好きだ。佑都が大好きだ……。
「好き……ゆう、と」
佑都の香りに包まれながら、熱く硬くなったところに手を伸ばした。その時。
パタン。
扉の音がして、ドアが開いた。
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