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1-1.無差別連続神隠し事件
幸せという言葉を聞いて、最初に思い浮かぶのはどんなことだろうか?
美味しいものをたくさん食べること。
愛する人が平穏無事に生きていること。
たくさんのお金を湯水のように使えること。
他人より自分の方が優れていると実感すること。
この世界にはきっと、人の数だけ幸せの形というものが存在しているのだろう。
そして、少女にとっての幸せは、再び家族四人で一緒に暮らすことだった。
「ママ……?」
震える声で呼びかけて、少女が地面を蹴る。
滲んだ視界を拭い、優しく両手を広げるその人の元まで、懸命に足を動かした。
「ママ……ママぁっ!」
その胸に飛び込めば、嗅ぎ慣れた匂いがして安心感が込み上げる。
温かい腕に背中を撫でられると、少女の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「ママ、もっと早く会いに来てよ! 結奈、とっても寂しかったんだよ?」
「ゆな」
「結奈だけじゃないよ? パパもたっくんも寂しがってたんだから! 結奈、ママがいなくなってから、もう一度会わせてくださいって毎日神さまにお願いしてたんだよ?」
「ゆな」
少女は目の前の人物を見上げて、幸せそうに微笑んだ。
「謝らなくていいよ。だってママ、ちゃんと会いに来てくれたもん」
「おいで」
「うん、お家に帰ろ! ママが帰って来たらね、パパもたっくんもきっとびっくりするよ!」
「おいで」
少女が手を繋ぎ、歩き出す。
嬉しそうに"ママ"に語りかける少女は、この日を境に消えた。
◆◆◆◆
綺麗に整えられた木々が並ぶ庭、優雅に池を泳ぐ美しい鯉。
都内某所に位置するその屋敷は、黒縄組という暴力団を率いる組長の家だった。
奥座敷の一角に置かれた和座椅子に座る、白一色の髪をオールバックにし、渋い色味の着物を身に纏った老人。
黒縄組三代目、郡司龍蔵 は、手元の新聞を見てため息をつく。
『小学四年生女児、依然として見つからず。連続神隠し事件、新たな被害者か?』
少女の失踪を告げるその記事には、一ヶ月ほど前から起きている無差別失踪事件との関連性が見られると書かれている。
曰く、監視カメラなどで犯人の特定が出来ていないこと。目撃証言がないこと。
被害者は全て同じ地域に住んでいること。警察の捜査が暗礁に乗り上げていること。
再度大きなため息をついた時、障子の向こうから声が掛かる。
「爺さん、俺だ」
「龍之介か……。入れ」
音もなく障子が引かれて、龍之介と呼ばれた男が部屋に入った。
すらりとした長身に、端正な顔立ちの美丈夫。
しかし、どこか他人を近寄らせないような雰囲気を纏っている彼は、龍蔵と向かい合って畳にあぐらをかいた。
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