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「急に呼び出して何事だ?」 「決まってるだろう、結奈の件だ」  龍蔵が新聞を畳に置くと、龍之介はちらりとソレに視線を落とす。 「結奈が行方不明になってから三日だ。なのに手がかりの手の字も見つからないとはどういうことだ?」 「んなこと俺に言われてもなぁ。こっちも部下割いて手伝ってはいるが、有力な情報がなんも出てこねぇんだ。結奈の前の失踪事件も当たってはいるが、期待は出来そうもねぇし……」  やれやれと龍之介がため息をつく。  行方不明になった小四女児……郡司結奈は、龍蔵にとってはひ孫であり、龍之介にとっては姪に当たる。  黒縄組を預かる組長の愛孫が事件に巻き込まれたとあって、現在組内は大変な騒ぎの渦中にあった。  龍之介も例にもれず、情報収集や部下の統制に追われている。 「こりゃもう、あの人の力を借りるしかないか……」  ぽつりと呟いて龍蔵が立ち上がり、文机の引き出しから分厚いハガキの束を持って来る。 「龍之介。お前この人んとこ行って、連れて来てくれ」  紐を解いて確認すれば、それは全て暑中見舞いだ。  金魚鉢、ひまわり、海、うちわ……。  毎年違う絵柄の印刷されたハガキに『暑中お見舞い申し上げます』の一文だけが手書きで書かれたそれは、色褪せて黄ばんでいる。  裏面を見れば、なんと書いてあるか分からないほどの達筆で住所や名前が書かれていた。 「儂の昔馴染みでなぁ。榊朱鷺子(さかき ときこ)という、それはもう綺麗な女性だったんだ」  昔を思い出すように、龍蔵が瞳を細める。 「白雪の肌に艶やかな黒髪。日本人離れした瑠璃色の瞳が印象的で、この辺に住んどった男たちのマドンナ的存在でなぁ」 「爺さんが若い頃の話だろ? なら今は婆さんじゃねぇか」 「何を言うか、婆さんは婆さんでも美魔女に決まっとるわ!」  憤慨の意を唱える龍蔵を無視して、龍之介は再び暑中見舞いへと視線を落とした。  下の方にあるハガキはまだ新しい。宛名を見てみれば、先ほどまでの達筆とは違い、丸っこい文字が並んでいる。  これなら差出人の住所も問題なく読むことが出来た。 「おいおい、新幹線使っても片道三時間は掛かんじゃねぇか。つーか村って……」 「交通費なら儂が持つ。車も手配しよう」 「そりゃありがてぇが……。どうしてこの婆さんを連れて来なきゃなんねぇんだ?」 「それがなぁ、朱鷺子さんはその筋じゃ有名な霊能力者なんだ」 「霊能力者ぁ?」  素っ頓狂な声を出した龍之介に、龍蔵が深く頷いてみせる。 「彼女なら、きっと結奈を見つけられる」 「その根拠はどっからくんだ?」 「若い頃、何度か一緒に仕事をしたからな。彼女の力が本物だということは、儂が保証する」  龍蔵は真剣な表情で龍之介を見ている。  この老人が言い出したら聞かないことも、人一倍頑固なことも、身内である龍之介はよく知っていた。  ここで断ると言ったところで、大人しく引き下がるような人ではない。  ため息をついて、龍之介はガシガシと頭をかく。 「分かった、行くだけ行ってみるが……。あんまり期待はしない方がいいぜ」 「分かっとる。儂も朱鷺子さんも、歳を取ったからなぁ……」  過ぎ去った時間を思い返すように、龍蔵が暑中見舞いを見つめていた。

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