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1-2.榊朱鷺子はどこに?

 翌日。  龍之介はひなびた村にいた。  早朝から三時間新幹線に揺られ、さらに黒縄傘下の下っ端が運転する車でぐねぐねとした山道を進んだ先。  緑の生い茂る山間に、その小さな村はあった。  見渡す限り田んぼや畑が広がり、道路はかろうじて舗装されているが、ところどころに経年劣化のひび割れや穴が見られる。  途中、一軒だけ見かけたコンビニは、二十四時間営業ではなく夜になると閉まるらしい。 「こんな場所じゃ一日だって暮らせねぇな……」  その呟きは切実だった。  生まれた時から都会で過ごして来た龍之介にとって、何もない田舎は未知の領域だった。  見慣れない高級車を、すれ違う老人たちがじろじろと眺める。  きっと数時間と掛からずに、町中によそ者の目撃情報が広がるんだろう。 「郡司さん、着きましたが……」  車が止まって、運転席にいた下っ端が困惑した様子で龍之介を見る。 「本当にここで合ってるんですか?」 「そのはずなんだがなぁ」  車の窓から外を見れば、大きな音を立てながら、重機が民家の屋根を引っぺがしている。  壁の一部ははすでに無く、誰がどう見ても解体工事の真っ最中だ。  明らかに、ここに人は住んでいないだろう。 「ちょっくら行ってくる、お前はここにいろ」 「分かりました」  車外に出て辺りを見回せば、一人の老婆が遠巻きに解体の様子を見守っていることに気づく。  胸の前でギュッと両手を握りしめ、その顔には心配や悲しみに似た表情を浮かべていた。  彼女が榊朱鷺子だろうか? 近づくと、龍之介は出来るだけ穏やかな声音で話しかける。 「すみません、榊朱鷺子さんですか?」 「え?」  突然見知らぬ男に声をかけられて、老婆は驚いたように龍之介を見上げた。 「いえ、違います。私は近所に住んでいるもので……」 「そうですか。では、榊さんがどちらにいらっしゃるかご存知ですか?」 「朱鷺子さんなら、昨年亡くなられましたけど……」  その言葉を聞いて、龍之介は僅かに眉間に皺を寄せる。 「そうだったんですね……」  ため息と共に言葉を吐き出して、龍之介が額を片手で覆った。  嫌な予感という物は、なぜこうも的中してしまうのか?  龍蔵への報告を思うと気が重い。 「……もしかして、朱鷺子さんにご相談があったの?」 「えぇ、まぁ……。お力を借りられたらと思ったんですが」 「だったら、お寺に行ってみてください」 「寺?」  確かに、ここに来る途中に立派な寺があったが……。それとこれとなんの関係があるのだろう?  きょとんとした龍之介を前に、老婆が注意深く辺りを見回してから顔を寄せ、ひそひそと話しだす。

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