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「朱鷺子さんを訪ねてきたってことは、あなた幽霊のことで悩んでるんでしょう」  深刻そうに眉根を寄せた老婆に、龍之介が曖昧に頷く。  幽霊なんてものは、生まれてこの方見たこともないのだが……ここは話を合わせておいた方が良さそうだ。 「お寺に朱鷺子さんのお孫さんがいらっしゃるの。あの子もクギさんだから、朱鷺子さんと同じ力を持っているんです」 「クギさん?」  聞き慣れない言葉に首を傾げると、老婆は取り繕うように笑った。 「この辺りでは、特別な力を持った人のことをクギさんって呼ぶんですよ。あの子なら力になってくれると思うから、訪ねてみるといいかもしれません」 「そうですか……。寺っていうのは、ここに来る途中にあった場所でいいんでしょうか?」 「はい、この道を真っ直ぐ行ったところにある小槌寺」  来た道を指差す老婆に礼を言って、龍之介は車へと戻った。  下っ端に途中にあった小槌寺に行くよう伝えれば、車は滑るように走り出す。 (霊能力者の孫か……)  寺にいるということは、坊主でもしているんだろうか?  霊能力というものを持っているのなら、確かに天職かもしれない。  しかし、問題は結奈を探すことが出来るのかどうかだ。  老婆も幽霊絡みの悩みか? と聞いてきたし、いわゆるお祓いのみで、人探しは専門外だと言われたらどうしたものか……。  そんなことを考えているうちに、車が駐車場へと停まる。  龍之介は一人で車を降りると、砂利道を歩いた。  枯葉一枚落ちていない参道や、綺麗に剪定された木々が、この寺がきちんと人の手で管理されていることを物語っている。  境内に並ぶ緑の紅葉も、秋になれば美しく色付くに違いない。 「ま、こんな辺鄙な場所、二度と来ようとは思わねぇけど」  そう独りごちた時だった。  視界の端で何かが動いて、そちらに意識を向ける。  境内の片隅にぽつんと立つ石碑。その前にちょこんとしゃがみ込んでいた人間が、ちょうど手桶を片手に立ち上がったところだった。  小柄で華奢な体躯に、毛先が肩に届く長さの金髪。  白一色の和装をしたその人物は、明らかにこの場所から浮いていた。  爺婆ばかりの村には似つかわしくない、垢抜けた子ども。  ふいに、子どもが龍之介の方を見た。  大きな瑠璃色の瞳と視線が合う。 「白雪の肌に艶やかな黒髪。日本人離れした瑠璃色の瞳が印象的で……」  榊朱鷺子について語る龍蔵の言葉を思い出す。  孫ならば、同じ瞳の色をしていてもおかしくないだろう。  龍之介が子どもへと近づく。 「ちょっと聞きたいんだが……お前、榊朱鷺子の孫か?」 「そうですけど……」  想像していたよりも、少しばかり低い声が肯定する。  中性的な見た目から計りかねていたが、どうやら目の前の子どもは少年のようだ。  少年は突然現れた見知らぬ男に、おずおずとした眼差しを向ける。  無理もないだろう、いきなり面識のない人間に個人情報を聞かれれば、誰だって警戒する。  なんなら不審者だと思われているかもしれない。  違うんだ、と弁明しようとした時、龍之介を見つめていた少年の瞳が、まん丸に見開かれる。

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