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1-11. 目撃者
「どうか、結奈のことをよろしくお願いします」
外まで見送りに来た護衛と並んで、真美が深々と頭を下げる。
見えていない人間の手前、下手に反応することも出来ず、龍之介は視線で頷いた。
「はい、任せてください!」
しかし、幸人は当たり前のように真美に向かって笑ってみせる。
護衛には、幸人が突然何もない空間に向かって話し始めたように見えるのだろう。
面食らったように、幸人と幸人の視線の先を見比べている護衛に「もう下がっていいぞ」と龍之介が声をかけた。
そうすれば怪訝そうな顔をしながらも、護衛は家の中に戻って行く。
「ったく、ちょっとは人目を気にしろよ。変人だと思われるぞ?」
「龍之介さんは、俺が変人だと思われると嫌なんですか?」
「そりゃまぁ、あることないこと言う奴もいるしな」
人の口に戸は立てられない。
噂というものは、尾ひれを付けながら面白おかしく広まるものだ。
巡り巡って本人の耳に届いた時、その噂が心を傷つけないとは限らないだろう。
頭を撫でられた幸人が、不安そうに眉尻を下げて龍之介を見上げた。
「…… ……もしかして俺と一緒にいるの、恥ずかしいですか?」
「そうじゃねぇよ。ただ、お前には出来る限り傷ついてほしくないんだ」
天真爛漫な幸人が、他人のせいで俯く姿は見たくない。
自分と一緒にいる限りは、伸び伸びとなんの心配もなく過ごさせてやりたいと龍之介は思っている。
「龍之介さんは優しいですね」
「言っておくが、お前にだけだぞ?」
龍之介がいたずらっぽく笑って、幸人がキョトンと首を傾げた。
「龍之介くん、変わったわね」
やり取りの一部始終を見ていた真美が、微笑ましげに瞳を細める。
龍之介の面倒見がいいことは知っていたが、それと同時に、他人との間に一線を引く節があることにも真美は気づいていた。
完全には他人に心を許さず、一定の距離以上に近づこうとすると、やんわり拒否されてしまう。
そんな龍之介が、目の前の少年を自ら懐に招き入れているのだ。
(結婚する気もないし、特定の恋人も必要ないって言っていたのに……)
今の龍之介を見れば、先ほどの発言が本気であると窺い知れる。
ただ、そこに恋だの愛だのという感情が絡んでいるのか、はたまたペットを飼う感覚なのかは分からない。
「いい? 幸人くん。もしも龍之介くんに嫌なことや怖いことをされたら、その時はちゃんと拒否するのよ」
「はい?」
「龍之介くんも、独りよがりな行為はダメよ? 本当にその子が大切なら、ちゃんと二人で話し合って、同意を得てからお付き合いするのよ?」
「分かってるよ」
何を言われているのか分からないという様子で首を傾げる幸人と、ビシッと龍之介を指差す真美。
二人からの困惑と諌めるような視線を受けて、龍之介は苦笑いをした。
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